JTBの発表によると、4月25日から5月5日の大型連休期間の国内旅行者は前年比53.1%増の2450万人と予想されていた。報道によると、この大型連休中、数年ぶりの海外旅行をはじめ、国内の長距離旅行など、各地の観光地は旅行客でにぎわっているようだ。反面、近場で楽しむ層もいるなどその過ごし方には多様性がみられる。
筆者は以前より行っている旅スタイルがある。普段は自動車や電車で通りすぎる都市やまちをそぞろ歩きすること。題して「トシ散歩」。歩くことでまちと人の関わりやその経緯を体感でき、そして新たな発見がある。2年前、「南へ編」として大阪市内の天満橋から和歌山県海南市までの熊野古道紀伊路、約100キロを辿った(コラム参照)。何日かに分けてであるが、古人の歩みを体験した。
この春は「西へ編」を実施してみた。そのうち神戸市の東西横断を取り上げてみたい。
■神戸のまちを「トシ散歩」
神戸というと港町で海が目に浮かぶ。と同時に、六甲山に代表される山麓の姿。つまり海と山のまちであり、その間に市街地が東西に横たわっているイメージだろう。今回はその神戸市内の沿岸7区(東灘区、灘区、中央区、兵庫区、長田区、須磨区、垂水区)を歩いてみた。
すると、そこには山と海以外の自然にも結構出会う。都会を流れる川である。
都市に川はつきものだ。以前のコラムでも取り上げた水都大阪の話題のように、古来、大阪は川への関わりが深い。現代の大阪であれば淀川及びその支流や大和川であろう。大阪以西の政令指定都市では、岡山は旭川、広島は太田川など。ただ、同じ山陽本線沿線の神戸についての川についてはどうだろうか。いわゆる大河はみられず、全国的に名が通っている河川は少ないように感じる。
東から順に、主なものを並べてみた。
(1.住吉川:東灘区)
(2.石屋川:東灘区)
(3.都賀川:灘区)
(4.生田川:中央区)
(5.宇治川:中央区・兵庫区)
(6.新湊川:北区・兵庫区・長田区)
(7.妙法寺川:北区・須磨区)
(8.福田川:須磨区・垂水区)
■神戸の川にまつわる四方山話
河口付近を除くと、いずれの川にも段差や傾斜が目立つ。神戸ならではの地形だろう。それゆえ、平時は穏やかな一方で、まとまった雨の後は濁流となり、これまで様々な自然災害を発生させてきた。1938年の阪神大水害をはじめ、近年では2008年のゲリラ豪雨の大惨事など数多い。そのたび人々は対策を講じそれらと共に歩んできた。
しかし、反面、効用もあった。急流を利用した水車は酒造のほか菜種油の搾取、素麺用小麦の製粉や線香作りなど様々な産業に活用された。その昔、住吉川の下流には80棟以上の水車小屋があったという。これらの水車は電気の普及とともに廃れていったが、現在ならエコの最先端かもしれない。動力源は川の水流なのでほぼ無限であるし、電気は用いず、またCO2は発生させないのだから。
これら以外にも、1.住吉川の「清流の道」誕生話や、2.石屋川沿いに佇む水害・空襲・震災を耐えた御影公会堂に関わる話、4.万葉の時代から近代文学にも取り上げられた生田川にまつわる数々の物語など、神戸の川には様々なドラマがあり、まちの歴史的経緯に少なからず影響を与えているのである。
例えば、1の住吉川岸で、今は遊歩道として利用されている清流の道は、その昔、土砂運搬のためトラックが往来していた通路の名残である。4の生田川の物語は旧生田川時代のものであり、外国人居留地の整備に伴って付け替えられた旧川は今の三宮のメインストリート(フラワーロード)に変貌している。川が都市インフラとしての道へ変化する派生的なストーリーにも面白さを感じる。
■「都市自然」三位一体が神戸の魅力の一つ?
日本には3000以上もの川があるという。山に降った雨が川となり、海へそそぐ。そこで水蒸気に変化した水はまた雨となって山へ降り注ぐ。日本のどこでもみられる多くの川がその重要な役割を担っている。仮に「川密度」なんていう指標があれば、世界でも群を抜くのではと思うくらい、川の存在は身近である。
都市の中に佇む自然。様々な経緯で今の形となったその背景には、自然と人の経験知が合わさっている。そんな都市と自然の姿が織りなす関係に心地よさを感じ、筆者はこれらを「都市自然」と称して親しんでいる。
六甲山系を源とし、急峻な川とともにすぐ近くに広がる海を利用して、物資や製品を他の地域へほどなく運搬可能な地域環境。古来行われてきた、これら「都市自然」を三位一体としている姿が神戸らしい。
そんな立地だからこそその個性がもっと注目されてもよいのではないだろうか。神戸にはそれを身近に体感できる光景が至る所にある。今回のまち歩きはそんなことを感じさせる旅だった。
■おわりに
23年1月に「神戸登山プロジェクト」が始まった。神戸の強みを発信するよい機会だと思うし、より多くの人たちに興味を持ってもらいたい。あわせて、関連する「都市自然」である「川」にも関心が向けばと感じている。都会では見落とされがちな場である川面や川辺がさらにフォーカスされることを願う。
■略歴■
不動産鑑定士トシこと深澤俊男(ふかざわ・としお)。不動産業界に30年以上。CBRE総研大阪支店長を経て、深澤俊男不動産鑑定士事務所代表、株式会社アークス不動産コンサルティング代表取締役。近畿大学「