【コラム・不動産鑑定士トシの都市Walker】小中一貫校「豊中市立庄内さくら学園」が開校!~その印象と雑感~〈23/4/21新規〉


4月は始まりの時期。特に新入生や新入社員など、新しい場でのスタートとなる場面が多くみられる。

そんな中、この4月、大阪府豊中市内南部エリアに、庄内さくら学園が開校した。施設一体型小中一貫校とのこと。義務教育の9年間を一般的な小学校6年間、中学校3年間に分けるのではなく、3つのステージで段階的に区切る。第1ステージは4年間、第2ステージはその後の3年間、第3ステージはその後の2年間を同じ学び舎で過ごすのだ。

■小中一貫校内を探訪した

開校前の3月に、建物内部を見学する機会があった。

(資料:庄内さくら学園リーフレットより)

建物内部には、アリーナと称する体育館が2つ、4階に位置するプール、9学年分の普通教室、各科目教室、支援教室、調理室、配膳室など充実した学校施設という印象をもった。同時にハード面での問題は特段感じられなかった。

他の学校と異なる点は、9学年をそれぞれ1年生から9年生と呼ぶことだ(写真は9年4組の教室)。現状、多少違和感があるものの、慣れてしまえばそうは感じないだろう。

敢えて気になる点を挙げるとしたら、子どもたちが使う1)トイレと、2)通学の点だろうか。今回の小中一貫校は、市内の3小学校と2中学校が統合して開設されたものであるから、子どもたちの数が相当増えることと、その通学に際しての点を危惧している。

1)9学年全ての子どもたちが使うトイレの数が足りるのか。率直に疑問を感じたが、市役所曰く、十分検討の上、設置しているとのことだった。

2)校区が大幅に広がるため、子どもたちの通学距離は長くなると想定される。中には交通量の多い交差点を横断せざるを得ないケースもあることなどが懸念材料であろう。

■隣接する庄内コラボセンター

東側隣接地に位置する庄内コラボセンター(愛称:ショコラ、以下同)もほぼ同時期に完成した。

外観上、型式、デザイン、色彩など似通っていて、まるで双子の施設のようだ(写真右が庄内さくら学園、左が庄内コラボセンター)。

また、両施設は境界がなく、これらを挟んで南北に貫く通路は誰もが自由に通行可能である。その通路部分は塀などは設けられておらず、学校としては珍しい。なお、セキュリティーは確保されているので校内に部外者は入れない。

ショコラには、図書館や多目的室、コミュニティースペースなど、一般市民が利用可能な様々な施設があるため、子どもたちをすぐそばで見守ることも可能だ。

これに関連して、4月のとある昼下がり、30歳前後の男性が子どもたちを連れて下校している姿をみた。市役所の職員によると、ボランティアとのこと。登下校のサポーターはママさんかシニアの仕事と思いきや、子育て世代バリバリの若い男性の活動に微笑ましい気持ちになった。前記の通学に際しての懸念点も少し薄らぐかもしれない。

■目に見えない面はどうだろうか?

ハード機能は十分。地域のバックアップもある程度期待できる。とすると、気になるのは子どもたちに一番身近な先生との関わりではないだろうか。

筆者は以前より、子どもたちにとって、先生の一挙手一投足は我々大人が思っている以上に大きいものだと感じているし、実際、そのような声をよく耳にする。子どもたちは先生をよく見ているし、その影響を受けるのだ。

そんな先生の勤務実態が問題視されて久しい。文部科学省が平成28年に調査した「教員勤務実態調査」では、平均出勤時刻は7時30分頃、同退勤時刻は19時過ぎと、学内勤務時間は小・中学校ともに11時間を超えている。おまけに土日祝日もクラブ活動に勤しむ状況。自由に過ごせるいわゆる休息時間はほぼない状態であることは想像に難くない。近時、マスコミ報道などでその激務がよく紹介される。気晴らしにランチを食べに行く、営業中に喫茶店でコーヒー休憩など一般の就業者なら可能なことがしづらい結果、ストレスにつながり、それが子どもたちへ何らかの影響を与えていないだろうか。

なお、先生の数自体を増やすとか待遇を向上させる点が議論されているがここでは触れない。それら以外の点で、比較的容易にこの課題に向き合うよい策はないだろうか。

■「FIKA」タイムとそのスペースを導入しては?

北欧のスウェーデンには「FIKA」(フィーカ)という習慣があるという。飲み物などが用意された落ち着いた雰囲気の部屋で、会話を楽しみ休憩する時間のことだ。これが学校にも導入されているようだ。先生はそこで休憩時間などに同僚と気楽に話をする。そこに子どもたちは入れない。先生たちが心と体を休めるいわば憩いの場ともいえるだろう。

筆者も大学や専門学校などで講師を務めているが、その控室に学生は立ち入ることはできない。授業の合間にほっとできる空間であり、聖域ともいえる場なのだ。

効率化を追求すると、小中一貫の全体職員室を設置するのはわかる。あわせて子どもたちが気軽に入れる風通しのよい雰囲気作りも重要だろう。ただ、一方で先生にとっての独自空間も必要だと感じる。先生であっても生身の人間で、完全無欠ではない。そもそも教育空間では「子どもファースト」でありつつ、同時に「先生ファースト」のスタイルがあってもいい。我々は久しく持ち続けていた従来の先生像からそろそろ卒業してはどうだろうか。

そこで、上記の習慣を見習い、職員のみが使えるユーティリティースペースを設けるのも一手ではないだろうか。自由な空間が現状の職員更衣室だけでは少し物足りない。同一敷地内にあるショコラを使うのも一手だろう。今後の課題として検討されることを期待する。

■終わりに

施設一体型小中一貫校という新しいスタイルだからこそ、新しいことにチャレンジするよい機会だろう。この学校、また地域全体がさらによい方向に進むことを、そして、子どもたちが心身ともに健やかに育つように切に願う。

■略歴■
不動産鑑定士トシこと深澤俊男(ふかざわ・としお)。不動産業界に30年以上。CBRE総研大阪支店長を経て、深澤俊男不動産鑑定士事務所代表、株式会社アークス不動産コンサルティング代表取締役。近畿大学「不動産論」非常勤講師。「物言わぬ不動産と都市不動産マーケットの語り人」として、不動産業者でない中立的な立場で独自視点の調査コンサル・講演活動などを行う。上場企業、自治体、各種団体、大学など独立後13年間の講演・講義回数は約300回。その他、本邦初のサービス「ビル史書」や「地跡書」を展開するなど、不動産業界では異質な活動が持ち味。社名のアークス(ARCS)は各事業領域の略称。詳細はHPまで。趣味は旅行。全国47都道府県に足跡がある、自称「ほっつきWalker」。こちらから「☆コラムちらし☆20230420☆」をダウンロードできます。