年齢について意識する時期が1年のうち2回ある。一つは誕生日、もう一つは年の変わる正月。幼い頃から、正月を迎えるたび「1つ年をとる」と言われたことを思い出す。
筆者トシは現在54歳。アニメ「サザエさん」の波平と同い年である。
というと、頭頂部に毛が一本?というわけでなく、おかげ様でまだ大丈夫だ。先日、高校の同窓会があり、同い年の面々が集まったが、波平スタイルはいなかった。ちなみに、同い年の有名人を見渡しても、頭の薄い男性はあまり見当たらない。
故長谷川町子氏が漫画「サザエさん」の連載を始めたのは1946年。つまり戦後すぐ。その後の時代を辿りながら74年まで続けられた。連載終了後も、テレビアニメなどで、その姿が垣間見れる。
「サザエさん」関係の書籍は昔から数多くみられ、10年くらい前からは不動産、特に相続に関連したタイトルを冠する解説本が書店に並んでいる。
筆者が14年前から教鞭をとる近畿大学の講義「不動産論」でも、「サザエさん」の話題は興味を持ってもらいやすく、事例紹介などで用いている。
それは10代から70代という多様な受講生のほぼ全てが知っており、誰もがイメージしやすいからだ。
ただ、不動産に関する講義を行う上でいつも困る点がある。「時間」の経過に関する場面である。
■「年」をとらないアニメ?
アニメ「サザエさん」は1969年から放送開始され、半世紀を超えた長寿番組である。社会情勢や「まち」の様子などは時代背景を取り入れているようだが、50年経っても、この家族の人たちは年をとっていない。カツオやワカメはずっと小学生だし、タラちゃんに至ってはいつまでたっても幼稚園にはいかないのだ。
そんな中、2008年に話題になったコマーシャル(CM)がある。アニメ「サザエさん」の25年後を芸能人が描写しているものだ。カツオを浅野忠信、ワカメを宮沢りえ、タラちゃんが瑛太、そしてイクラちゃんに小栗旬。ちなみに、カツオは36歳で自由人、ワカメは34歳でエレベーターガール。イクラちゃんは26歳でIT企業の社長。アニメとは異なる未来の姿だ。
あくまでパロディなのだが、逆説的に年をとらないアニメだということを意識づけられる。
■「都市」は「年」をとる?
「ヒト」は「年」をとる。非日常的なアニメの世界にはその観点はあまりみられないが、現実はそうではない。誰であっても年をとっていく。
では、「都市」はどうだろうか。
京都、奈良といった1000年単位の古都など関西には歴史ある「都市」が数多く存在する。その一方で、まちびらきと称され、新しく生まれる「都市」もある。その点では「年」を感じさせる。
「ニュータウン」、「オールドタウン」というワードのように、新しい、古いという表現が用いられることがある。ただ、何が新しくて、何が古いのか、そして何が良いのか、そうでないのか、疑問に感じることも少なくない。
なまじ新しい建物ばかりの「都市」でも何となく時代錯誤な雰囲気を生じる場合もあれば、古い佇まいの建物が集積した「都市」にも新しい息吹を感じることもある。
そこには「ヒト」の感覚的なものが介在しており、それが「都市」のあり方に大いに影響している。そこに存在する建物の経年など構成要素のスペック自体が、必ずしも「都市」の新旧を測る尺度ではないだろう。
とはいえ、「都市」も「年」をとることを否定するものではない。
なお、筆者が用いている「都市」とは、かなり広い意味合いを踏まえたものであることを断っておく。各種法令上の定義などとの関係にはあまり目くじらをたてたくない。もっとも、「都市」そのものについて明確に定義されている法令等には出会った記憶がほぼないが。そんな漠然とした言い回しである「都市」は、より柔らかな表現である「まち」といいかえてもいいだろう。
ちなみに、筆者にとって、「都市」や「まち」とは「ヒト」と不動産が合わさった結晶のような存在と位置付けている。
■「年」をとる「ヒト」と「都市」は似ている?
以前のコラム「建物の「終活」とは?~別れの季節に考えてみる~」で紹介したが、不動産の一形態である建物はいつか幕を閉じる。
それらを用いて「ヒト」が生活を営む結晶体である「都市」も同様であろうか。
新たに出現する「都市」もあれば消えていく「まち」もある。目覚ましい発展を遂げる一方で、時には病にかかるなど、常に順風満帆ではなく、様々な姿を見せることもある。
「都市」もまるで「ヒト」と同じようにその生涯を歩んでいるかのようだ。また、「ヒト」と同様に、それぞれ個性を備えていることから、何一つ同じものがないことも共通している。
「ヒト」には必ず終わりが訪れる。
一方、「都市」や「まち」は、そこに集う人たち、思いを寄せる数多くのファンがいる限り生き続ける。まるで「サザエさん」のように。
そんな人間じみた「都市」を、そこに関わる「ヒト」とともに次代へ伝えていきたいものだ。
■終わりに
「年」をとらないサザエさん一家にも最終回の噂がある。もっともいわゆる「都市伝説」であるが。
その中でも最も有名なのが、「磯野家が海外旅行に出かけた際に飛行機事故で海に墜落。家族は元の海の生き物に戻る」というものだ。
事故そのものには心が痛むが、反面ほのぼのとした顛末で妙に得心したことを覚えている。
波平世代になったからこそ、見えてくるものがある。
「ヒト」は限りある生涯で、それぞれが持つ性格に応じ、その特長を伸ばすことにもっと力を注げばいいと。多様性を認める時代なんだから。
とともに「都市」や「まち」も、個性を見極め、磨いていくというスタンスがより必要ではないだろうか。人為的に型にはめることはほどほどとし、些細な点は受け流して、「都市」たちがすくすく健やかに育つように願う。
年頭にあたり、「年」を重ねると、そんなことに思いを巡らす機会が増えてきた。
■略歴■
不動産鑑定士トシこと深澤俊男(ふかざわ・としお)。不動産業界に30年以上。CBRE総研大阪支店長を経て、深澤俊男不動産鑑定士事務所代表、株式会社アークス不動産コンサルティング代表取締役。「物言わぬ不動産と都市不動産マーケットの語り人」として、中立的な立場で独自視点の調査コンサル・講演活動などを行う。上場企業、自治体、各種団体、大学など独立後13年間の講演・講義回数は約300回。その他、本邦初のサービス「ビル史書」や「地跡書」を展開中。趣味は旅行。全国47都道府県に足跡がある、自称「ほっつきWalker」。こちらから「☆コラムちらし☆20230113☆」をダウンロードできます。