これまで何度か取り上げてきている「大阪オフィスビル2022年問題」。これは2022年に大阪都心において、これまでにないレベルにてオフィスビルが供給されるというものである。その代表が、コラムでも触れてきた「大阪梅田ツインタワーズ・サウス」や「日本生命淀屋橋ビル」である。
もちろん、マーケットに影響を与えているのは確かであるが、筆者は関連する別の事象も気にしている。
建物の一生は、大雑把にいうと、何もない更地から始まり、着工、建築、竣工という流れとなる。供給とはそのうちの竣工に着目したものである。いわば結果時点であるが、マーケットをみる際には、それ以前の供給予定もポイントの一つといわれる。
そこで、今回は、その供給予定が目に見える状態となる「着工」から「竣工」まで、すなわち「建築中」にフォーカスしてみたい。これまでも未来を読むためへの一助として今後の供給予定事例を用いることを取り上げた(コラム参照)。それに関して、これまでとは異なるレベル感のビル建築が進捗している場所がある。
いわば、もう一つの「大阪オフィスビル2022年問題」なのだ。
■これまでと異なるレベル感のビル建築が続く場所とは?
まず、思い付くのは「梅田」エリアであろう。
中でも、最も注目度が高いのは、西日本最大の開発とも称される、
〇うめきた2期地区開発プロジェクトだろう。
以前、北ヤードⅡ期と称されてきたエリアに、先般、来春開業予定のうめきた地下駅の発表会が行われ、報道陣に公開された。地上のみならず地下でも動きが活発化している。
その他にもこの界隈において、建築中の主なビルは以下のとおり。
〇旧大阪中央郵便局・・・梅田3丁目計画(仮称)
これらはいずれも、大阪駅・梅田駅から至近で立地ポテンシャルの極めて高い場所である。そこに複数の超大型ビルが今後供給される予定だ。
一方、この陰で、建築が続いているエリアが二つある。
一つ目は、既に6棟が竣工済であるが、前回コラムにて紹介した「新大阪」界隈。
二つ目は、「御堂筋沿い」。以下、紹介しよう。
淀屋橋駅~本町駅間にて建築中なのが、以下の5棟のビルである。
①旧日土地淀屋橋ビルなど・・・・・淀屋橋駅東地区都市再生事業
②旧大阪東銀ビルなど・・・・・・・・・淀屋橋駅西地区第1種市街地再開発事業
③旧UD御堂筋ビル・・・・・・・・アーバンネット御堂筋ビル
④旧御堂筋安土町ビル・・・・・・・本町ガーデンシティテラス
⑤旧第二有楽ビル・・・・・・・・・(仮称)本町4丁目プロジェクト
本町駅~心斎橋駅間では、以下の2棟。
⑥旧御堂筋ダイビル・・・・・・・・御堂筋ダイビル建替計画
⑦旧心斎橋プラザビルなど・・・・・(仮称)心斎橋プロジェクト
参考までに、その南北においても散見される。
心斎橋駅~難波駅間には1棟
⑧旧三津寺・・・(仮称)三津寺ホテルプロジェクト
梅田駅~淀屋橋駅間には1棟
⑨旧大阪三菱ビル・・・(仮称)OM計画
このように、大江橋北詰交差点付近から御堂筋三津寺町交差点付近に至る、御堂筋沿い約3㌖の間に9棟のビルが建築中である。
また、淀屋橋駅から心斎橋駅に位置する7棟については、そのうち6棟が主たる用途を事務所としている。これらが、2023年~26年にかけて相次いで竣工する予定だ。
筆者は前職にて1999年に大阪に異動し、それから計23年間、大阪オフィスマーケットをウォッチしているが、同一路線上にここまで建築中が連なる光景は見たことがない。普段は落ち着いている印象のある御堂筋沿いに続々とビル建築が進められているのだ。
■御堂筋沿いオフィスマーケット状況の概観
これだけのビル建築が現在進行中で、今後数年にわたってマーケットに供給される御堂筋沿いであるが、その状況はどうだろうか。
アークス不動産コンサルティング社発表の「都心オフィスビル利用状況観測調査(御堂筋沿いビジネスエリア:2022年10月期)」によると、現状、淀屋橋駅から本町駅間におけるオフィスビルのフロア稼働率は高水準にて推移している(公表資料参照)。
また、仲介各社へのヒアリングにおいても、現時点にて、大きく変動しているような声は聞かれない。
では、今後はどうだろか。
筆者は、御堂筋沿いエリアについて多少の需給バランスの崩れは避けられないものの、極端に落ち込む可能性は低いと考えている。
いくつか要因はあるだろうが、その最大の理由は、建替であるということ。
梅田エリアや新大阪エリアは更地から建築するケースもみられるのに対し、御堂筋沿いの上記7棟は全てが建替である。再開発により容積率がアップし、総床ボリュームは増えるとはいえ、まっさらな状態から建築されるのに比べてその程度は小さい。要するに、需給バランスに与える影響は他の地区に比べ抑えられると思われる。
また、周辺地区を含めこのエリアには新築ビルが少なかったこともあり、御堂筋沿いを志向する企業にとっても追い風となる可能性がある。移転等を検討する機会が増え、動きが活発化することが予想され、あわせて、その周辺エリアに所在するビルを中心に入居者のシフトが進むだろう。
ただし、昨今の建築費の高騰により、賃料水準に与える影響が懸念材料だ。一般に、賃料は需要と供給の関係により上下するが、今回は別の要因が作用する可能性がある。ビル事業者にとって、採算性を確保するためには一段高い賃料設定を余儀なくされることも考えられ、その場合、平時であれば順調と予想される動きに影響を及ぼすことも否めない。
■終わりに
大阪都心で注目度が高いのはやはり梅田地区であろう。業界人のみならず、一般人にとっても分かりやすく、また目立つ超大型開発だからだ。
ただ、上記のとおり、その陰で御堂筋沿いのビルが相次いで出現する予定である。梅田に比べると、時代の波に流されにくく、業務エリアとして赴きのある御堂筋沿いが様相を変えつつある。今後数年間、台風の目になる可能性は否定できないだろう。
これほどまでにビル建築が集中した2022年は、印象深い年になるかもしれない。もしかすると、近未来の大阪都心オフィスマーケットを占う分岐点になるのでははないだろうか。
大きく動き始めた御堂筋沿いから今後も目が離せない。
■略歴■
不動産鑑定士トシこと深澤俊男(ふかざわ・としお)。不動産業界に30年以上。CBRE総研大阪支店長を経て、深澤俊男不動産鑑定士事務所代表、株式会社アークス不動産コンサルティング代表取締役。「物言わぬ不動産と都市不動産マーケットの語り人」として、中立的な立場で独自視点の調査コンサル・講演活動などを行う。上場企業、自治体、各種団体、大学など独立後13年間の講演・講義回数は約300回。その他、本邦初のサービス「ビル史書」や「地跡書」を展開中。趣味は旅行。全国47都道府県に足跡がある、自称「ほっつきWalker」。こちらから「☆コラムちらし☆20221209☆」をダウンロードできます。