【コラム・不動産鑑定士トシの都市Walker】新大阪にオフィスビル6棟出現!~コロナ禍中にビル供給が相次いだマーケットはどうなった?~〈22/11/25新規〉


2022年、都心にて新しいビルが続々と竣工している。前回は大阪市中央区の「日本生命淀屋橋ビル」(コラム参照)について触れた。また、今春には「大阪梅田ツインタワーズ・サウス」(コラム参照)を取り上げた。

一方、さらに以前のコラムにて、「大阪オフィスビル2022年問題」に先立つ注目エリアとして新大阪エリアでの近時の供給予定について触れたが、その結果はどうだっただろう。

その状況を取材した。

■新大阪エリアのオフィスビル供給状況

新大阪エリアのオフィスビル開発について、20年8月に発表された建設ニュースの記事(新大阪駅周辺のオフィスビル開発が加速/6棟が計画、総延べ8・7万平方㍍/22年度中までに6棟とも完成)がある。

当時の計画は予定。一般にビルの完成時期はずれ込むことが多い中、予定通り22年3月までに以下が竣工した。

・「S-BUILDING新大阪」

・「PMO EX 新大阪」

・「新大阪第2NKビル」

・「新大阪第5ドイビル」

・「Vianоde SHIN-OSAKA」

・「新大阪第3NKビル」

わずか1年半程度。しかも限られたエリア内に、これだけのビルが新たに供給されるのは珍しい。また、いずれもコロナ禍前に計画され、コロナ禍中に竣工したという特徴をもつ。

■新大阪エリアのオフィスマーケット環境

三鬼商事発表の大阪ビジネス地区(新大阪地区)の空室率は、2020年10月現在で4.52%。21年10月は5.67%。そして22年10月は9.86%と、2年で倍以上に拡大している。

大阪ビジネス地区全体だと、それぞれ3.14%、4.45%、5.12%だから、その差は歴然である。

市場関係者へ話を聞くと、その主な要因は、上記で示したこの1年半に供給された上記のビルが少なからず関与しているという。また、一般企業からも新大阪のビル群は空きが増え、賃料が値崩れするのではないかとの声も聞こえてくる。

そこで、弊社ではこれら6棟を築浅特定ビルとし、そのフロア稼働率を調査した(リリース参照)。結果は22年4月時点で、37%。半年後の10月時点では、63%。

なお、上記6棟の中には、ほぼ満室もあれば、ほぼ空き状態もある。ビルによってその稼働状況はまちまちのようで、必ずしも全てがよくないわけではない。しかもこの半年で入居は徐々に進んでいる。

ちなみに、このフロア稼働率は入居済が前提なので、仲介会社が発表する空室状況とは差があることを付記しておく。

確かに、現状、新大阪エリアのオフィスビルマーケット環境がコロナ禍前と異なっている。しかし、果たしてマーケットにとって過去に例のない状況に至っているのだろうか。

三鬼商事の空室率の場合、コロナ禍中での新大阪地区の最高値は2022年2月の10.46%。直近の10月ではそれから8ヵ月間で0.6ポイント減少し10%を下回っている。

すなわち、直近半年余りは、ほぼ横ばいから若干の低下傾向で、空室が大きく改善方向に向かっているとは言い難い状況であるものの、少なくとも上昇の一途をたどっているわけではない。

ちなみに、エリア空室率が10%を超える状況とは、大阪ビジネス地区では2009年から2013年頃とリーマンショック後の時期とほぼ重なる。同じく新大阪地区では、08年後半から10%を超え、それが2012年半ばまで4年近くほぼ持続している。中には12%を超える時期もあった。

さらに遡ると、2001年には、新大阪駅前に大規模ビル「ニッセイ新大阪ビル」が竣工したこともあり、エリア空室率は11~13%が数年間、継続したこともある。

これらから、過去と比べた際、直近10月時点(9.86%)は、マーケットにとって過去に例のない深刻な状況とはいえないのではないだろうか。

■新大阪エリアのオフィスマーケットの今後

では、オフィスマーケット環境は今後どうなるだろうか。

筆者は3つの点に着目している。

1つ目は今後の供給予定

新大阪エリア(駅北地区)には今後の供給予定は発表されていない。よって、供給側の要因で、これ以上、空室率が上昇する可能性は低いだろう。

ただし、駅南地区にはビル計画が1棟あり、24年に完成の見込みだ。現段階ではその影響はその不明だが、その立地、規模などからみて、それほど大きくはないと思われる。

2つ目は企業の立地ニーズ

元々、新大阪地区は交通利便性が優れた場所として企業が一定の評価をしているエリアである。その最たるものは新幹線である。これはあらためて言うまでもない。

もう一つ忘れてはならないのが車の利便性であろう。地味な存在であるが、企業活動にとって、特に営業マンを中心に社用車などの利用は見過ごせない。その点、北区や中央区といった都心と比較すると、相当な足回りの良さが認められる。また、駐車場料金も抑えられるなどといった副次的効果もある。

3つ目はまちの進化

これまでの東海道新幹線・山陽新幹線ターミナル駅としての実績、そして、北陸新幹線さらには中央リニア新幹線の開通予定。また、地下鉄なにわ筋線の延伸により、関西国際空港へのアクセスが向上する点など、様々な進化が予定されている。

これらのほか、2019年1月に、国、大阪府、大阪市、経済団体、民間事業者などからなる「新大阪駅周辺地域都市再生緊急整備地域検討協議会」が設置され、将来のまちづくりについて検討が進められている。22年10月には、「新大阪駅周辺地域」を都市再生特別措置法に基づく都市再生緊急整備地域に指定することが国において、閣議決定された。

(大阪府HPより)

これらの点からも新大阪エリアが落ち込むとは考えにくく、今後もオフィス立地として一定のポジションをキープするだろう。

なお、不動産のあり方を変える著しい想定外のことが起こらないこと、及び革命的な技術革新などがない限りとしておきたい。それは当地に限らず、どこでも一緒だろうだけれども。

■おわりに

新大阪エリアが中長期的に注目され続けるのはほぼ間違いないだろう。コロナ禍を経たとしてもヒトの移動が消滅することはなく、そこには、日本各地へアクセス可能という広域的な交通利便性のさらなる拡充の期待感が含まれている。ただし、これは一朝一夕ではなく相当の時間を要する。

そもそも、“ド短期”である1、2年での、ビル空室状況の変化はごく些細なものにすぎないように思える。このエリアはまだ発展途上段階なのだから。

長い目でみたとき、新大阪界隈の未来の地図が違う景色に見えるのは筆者だけではないだろう。そのポテンシャルが新大阪には存在しているのだ。

■略歴■
不動産鑑定士トシこと深澤俊男(ふかざわ・としお)。不動産業界に30年以上。CBRE総研大阪支店長を経て、深澤俊男不動産鑑定士事務所代表、株式会社アークス不動産コンサルティング代表取締役。「物言わぬ不動産と都市不動産マーケットの語り人」として、中立的な立場で独自視点の調査コンサル・講演活動などを行う。上場企業、自治体、各種団体、大学など独立後13年間の講演・講義回数は約300回。その他、本邦初のサービス「ビル史書」や「地跡書」を展開中。趣味は旅行。全国47都道府県に足跡がある、自称「ほっつきWalker」。こちらから「☆コラムちらし☆20221125☆」をダウンロードできます。