2022年。大阪都心不動産マーケットにおいて、大型ビルの供給が話題となっている。
その一つが、今年春に竣工した「大阪梅田ツインタワーズ・サウス」。以前のコラムで紹介したが、それまでの1年半で最も反響が大きく、読者の方々が持つ関心の高さを感じた。
「大阪オフィスビル2022年問題」と揶揄される本年のオフィスビルマーケット。後半は、もう一つの注目ビルが竣工した。その姿をみてみよう。
■「日本生命淀屋橋ビル」
地下鉄御堂筋線淀屋橋駅。その周辺には大阪市役所をはじめとした公的施設、銀行や生命保険会社など大企業の自社ビル、そして様々な賃貸ビルが集積する。同駅や御堂筋沿いを中心にその周辺地域を含めて、高度な業務エリアを形成している。
その一角に、先頃、1棟のオフィスビルが竣工した。その名は「日本生命淀屋橋ビル」。
元々は、この界隈では一般的な規模の賃貸ビルであったが、120mの高層ビルへ建て替わった(19年時の計画概要はこちら)。
詳細なビル概要は各社HPなどに委ねるが、その大まかな特徴を列記すると、以下のとおり。
〇立地は、地下鉄御堂筋線・京阪本線「淀屋橋駅」直結
〇新築
〇建物規模は、地上25階、延床面積は14,900坪
という、いわゆる「近・新・大」を兼ね備えたオフィスビルである。
また、BCP対策や感染症対策も施されているなど、昨今の時代要請にも対応している。
■ユーザーの感想サンプルと所感
このビルに対する率直な感想を、実際に入居した利用者にヒアリングした。対象はこの秋に入居したA社の社員数名。
・駅直結なので、とにかく便利。傘不要で相当な範囲を動ける。
・エレベーターは高層・中層・低層の3系統あるのでスムーズ。またスピードを感じる。
・非常用エレベーターが2基、それぞれが別動線にて設置されているのは便利。
・車寄せの位置が分かり易く、そこでの人の乗り降り・荷物の搬出入もスムーズである。
・ビル内に店舗がないのは意外だったが、高級フレンチ店が入居予定で品格を感じさせる。
・ビルエントランスにセキュリティーゲートはないが、特に不都合は感じていない。
・1階に何もないが、殺風景というよりも、むしろ開放感があってよい。
・リバーサイドにある景観のよい飲食店が好印象。一方、昔ながらの店舗も予想より多い。
・移転前より応募者が相当増加した。このビルの印象が採用にも寄与していると思う。
一方、印象の良くない点は今のところないとのこと。あくまでサンプルヒアリングであるものの、一定の評価がなされているのではないだろうか。
筆者はこれまで数多くのビルをみてきた。多くの場合、何らかの明確なマイナス面があるが、このビルに関してはそれがほぼ見当たらない。また、風格やゆとりがみられるが、反面、余計なものがない機能性を有するオフィスビルらしいオフィスビルだという印象だ。
ただ、これらを評価するテナントにとっては十分であろうが、そうでない業態の企業にとってはやや物足りなさを感じる可能性はあるだろう。
ちなみに、大手仲介会社営業マンからも話を聞いたところ、いずれもマイナス面のコメントはほぼ聞かれなかった。
■淀屋橋界隈の近未来の姿
淀屋橋駅近隣には開発が目白押しだ。
以前のコラムでも紹介したが、淀屋橋駅直上の2つの開発。
一つは、同駅東側の「淀屋橋駅東地区都市再生事業」。もう一つは西側の「淀屋橋駅西地区第1種市街地再開発事業」
同コラムでも触れたが、ここのところ、まちが「冬眠」状態にあった。そこに今回の「日本生命淀屋橋ビル」が竣工したことで、一部冬眠が明けた。そして、東地区に続き、この11月、西地区の再開発事業が着工するなど動きがみられるようになってきた。
さらには、まだ公式な発表はないものの、その西側の街区一体の三井住友銀行なども、将来的に何らかの形で開発されることが予想される。
これらの相乗効果で淀屋橋駅界隈の業務集積がさらに進むだろう。そして今後、どう発展していくか興味深い。
■おわりに
〇「ザ・オフィスビル」
個人的に、かなり以前からそんなワードを使っている。純然たるオフィスビルや混じり毛のないビルと言い変えてもいいだろう。
昨今は用途の複合化などで、その純度の高いオフィスビルが目立たなくなってきた。
立地により、ニーズにより、ビルの用途が多様化、複合化していくことはある意味当然である。
例えば、大阪駅などターミナル駅の目の前に純然たるビルがあった場合、今の時代、少々違和感を生じる人は多いと思う。今年竣工した「大阪梅田ツインタワーズ・サウス」は、あの立地だからこそ、用途が混在し、人の出入りを積極的に受け入れることで価値をさらに向上させているだろう。
〇「駅直結プレミアム」
大阪ビルマーケットならではのワードと位置付けている。経験上、大阪人ならではの駅直結に対するニーズの高さは以前から感じている。特に御堂筋線はその傾向が強い。
淀屋橋駅に直結しつつも、御堂筋には面していない。
この絶妙な立地が、「駅直結プレミアム」を有しながらも「ザ・オフィスビル」を成立させているのではないだろうか。だからこそ、このビルは稀有な存在と感じている。
派手さはないが、落ち着いた佇まいを持つオフィスに特化した大型ビル。そんなビルが少なくなってきた一方、それらに風情を感じる方々もきっと少なくないだろう。多様化といわれることが多い時代だからこそ輝きがあるようにも感じる。
そんな時代において、その立地に適合した「ザ・オフィスビル」は地域のナンバーワンである「ボスビル」に成り得るのではないだろうか。淀屋橋界隈の「ボスビル」として、また新しいビルが名乗りを挙げてきた。
■略歴■
不動産鑑定士トシこと深澤俊男(ふかざわ・としお)。不動産業界に30年以上。CBRE総研大阪支店長を経て、深澤俊男不動産鑑定士事務所代表、株式会社アークス不動産コンサルティング代表取締役。「物言わぬ不動産と都市不動産マーケットの語り人」として、中立的な立場で独自視点の調査コンサル・講演活動などを行う。上場企業、自治体、各種団体、大学など独立後13年間の講演・講義回数は約300回。その他、本邦初のサービス「ビル史書」や「地跡書」を展開中。趣味は旅行。全国47都道府県に足跡がある、自称「ほっつきWalker」。こちらから「☆コラムちらし☆20221111☆」をダウンロードできます。