一定規模以上の都市には大通りがみられることが多い。大阪のメインストリートといえば、誰しも「御堂筋」を思い描くだろう。
10年ほど前に、御堂筋の標高を描いたことがある。率直な感想は「意外」だった。それは後ほど紹介することとして、今、この通りが変わろうとしている姿をみてみよう。
■「御堂筋チャレンジ2022」
2019年に、大阪市によって策定された「御堂筋将来ビジョン」。そこには、御堂筋をクルマ中心からヒト中心へと移行させるというプランがある。
そのファーストステップとして「側道歩行者空間化」が進められている。
千日前通から道頓堀川区間についてはすでに完了し、今回の社会実験の対象エリアは、御堂筋の新橋交差点から難波駅前の約1㌖区間のうちの道頓堀川からの北側だ。
また、大阪市は10月15日から11月13日に、『2025めざして「御堂筋」のシクミをつくる社会実験』をテーマとして「御堂筋チャレンジ2022」を実施している。
(大阪市ホームページより)
この社会実験では側道2車線を閉鎖し、歩行者空間化などを実施する。拡張された仮歩道空間には、ベンチが置かれ人々が憩うスペースが設けられる。そこにはキッチンカーが出店し、オープンカフェやアートイベントも開催される。
これらを踏まえて、道路空間の活用方法や、歩行者への影響などを検証する。
そして、大阪・関西万博が行われる25年までに、今回の社会実験の区間において側道2車線歩道化が完成する予定だ。また、将来的には車線全てを歩道化する構想もあるという。
実際、何度か足を運んでみたが、側道にクルマが通らないことだけでも雰囲気が変わった。そして、ベビーカーの親子連れが御堂筋をこれまで以上にゆっくり渡っていたのが印象的だった。そこには、街路樹までのスペースに「ヒト」のために設けられた空間的な広がりと心理的なゆとりを感じさせる。
■歩道化がもたらすもの~他都市の事例と論文から~
道路の閉鎖と聞いて頭をよぎるのが、JR姫路駅の北側に位置する駅前幹線、通称、大手前通りの事例である(国土交通省の資料を参照)。
同駅から姫路城までのメインストリートのうち駅近箇所につき、分散していたバスやタクシー乗り場を集約するとともに、上記大手前通りをトランジットモール化し、路線バス・タクシー以外の一般車両の通行を禁止したものである。
2015年にこの駅前広場再整備事業は完了。その結果、歩道化により「歩行者通行量が劇的に増加」(上記資料参照)し、駅周辺の賑わいに効果を及ぼした。
個人的に昔から馴染みのあるこの場所にクルマが入れないなど想像できなかったが、できてしまえば慣れるもので、今では普通の光景になってしまった感がある。
また、歩道化による効果についての論文がある。
2021年10月に、
結論からいうと、歩行者中心の街路に立地する小売店や飲食店の売り上げは、非歩行者空間に立地するそれらよりも高いことを定量的に示した。そして、歩行者空間化により店舗の売り上げにポジティブな影響を与えることが導かれている。
これらから、歩道化には一定の効果が期待されるだろう。
■御堂筋沿いを標高で描いてみると?
さて、冒頭の話にもどろう。
御堂筋沿いにおける標高の調査結果は以下のとおり(公表資料「大阪都心の標高トレンド調査(御堂筋沿い路線価の推移:2012年~2022年)」)。
直近の22年、御堂筋の標高のうち、最も高い尾根は心斎橋駅辺りとなっている。この傾向はこの5年間をはじめ、その格差は異なるものの10年前とあまり変わらない。
ちなみに、相続税路線価はその目的が課税のためとされているものの、その価格水準は同様の公的評価である地価公示・地価調査と関係が深い。よって、その場所の経済価値を間接的に表現しているものともいえ、そこには不動産マーケット市況のほか、通行人数や店舗売上をはじめ様々な要素が複合的に含まれて価格が形成されている。
繰り返すが、ここのところ、心斎橋から難波に至るいわゆるミナミが御堂筋沿いの最高峰を継続している。
これを意外と思うか、当然と感じるかはさておき、この事実は受け止めておきたい。
同時に、コロナ禍がようやく落ち着き、国内の人流が回復し、訪日外国人が徐々に増えつつある。ひとまず、25年の万博開催にむけて、この標高が今後どうなるか興味深い。
■おわりに
17年に開設80周年を迎えた御堂筋。コロナ禍で多少影響を受けたものの、様々な試みが行われている。
その昔、駆け出しだった頃、デベロッパーや自治体の方々など多方面から様々な言葉を頂いた。その中でも印象深いこと、それは「まちづくりは一朝一夕で成し得ない」であり、「それが『醸成』するにはさらに時間がかかる」。今更ながら納得感のあるメッセージだ。
開設100年を経る頃の御堂筋はどのようになっているのだろうか。そしてその先は?
人を主役にした「みち」。その変化を眺めてみたい輩は筆者のみではないだろう。未来の姿に期待している。
■略歴■
不動産鑑定士トシこと深澤俊男(ふかざわ・としお)。不動産業界に30年以上。CBRE総研大阪支店長を経て、深澤俊男不動産鑑定士事務所代表、株式会社アークス不動産コンサルティング代表取締役。「物言わぬ不動産と都市不動産マーケットの語り人」として、中立的な立場で独自視点の調査コンサル・講演活動などを行う。上場企業、自治体、各種団体、大学など独立後13年間の講演・講義回数は約300回。その他、本邦初のサービス「ビル史書」や「地跡書」を展開中。趣味は旅行。全国47都道府県に足跡がある、自称「ほっつきWalker」。こちらから「☆コラムちらし☆20221028☆」をダウンロードできます。