【コラム・不動産鑑定士トシの都市Walker】南紀白浜にワーケーション施設が続々オープン!~観光地からビジネス融合地へ変貌?~〈22/10/14新規〉


以前のコラムで「地元ワーケーション」を提唱した。先が読みにくい時節における働き方の一つではないかと感じている。

ところで、外国人の受け入れが緩和されるなど、コロナ禍が落ち着きつつある中、本家のワーケーションはどういう状況なのだろうか。

そのワーケーションの聖地と呼ばれる「まち」が和歌山県にある。白浜町だ。

「白浜」というと関西では南紀白浜と称される有名な観光地。しかし、残念ながら関東の人の認知度はそれほど高くなかった。その「白浜」が今、注目されている。

■ワーケーションの意味するところはまだ途上?

周知のとおり、一般に「ワーケーション」とは、ワークとバケーションをあわせた言葉といわれている。ただ、使い手により、さまざまな意味合いをもっている。

例えば、観光庁によれば、「Work(仕事)とVacation(休暇)を組み合わせた造語。テレワーク等を活用し、普段の職場や自宅とは異なる場所で仕事をしつつ、自分の時間も過ごすこと」とある(HP参照、以下図も同様)。

一方、一般社団法人日本テレワーク協会では、「リゾートなどバケーションも楽しめる地域でテレワークを行うこと。ビジネスの前後に出張先などで休暇を楽しむプレジャーを含む。」とある(HP参照)。そして、そこには様々な考え方があることを踏まえ、その目的に沿って類型化して試案を作成している(地域で働くワーケーションなど4類型https://japan-telework.or.jp/workation_top/)。

これらから、言葉としては馴染みがあるものの、その対象や領域はまだ途上の段階にあるという印象を受ける。

■ワーケーション施設の具体的事例

では、白浜町が和歌山県とともに直接的・間接的に関わるワーケーション施設をみてみよう。

◎事例1は「白浜町ITビジネスオフィス

施設管理者は白浜町。元は保険会社の保養所で、リニューアルの上、2004年に開設した。訪問時点で満室稼働中。

入居企業のワーカーから以下のようなコメントがあった。

・元々は総務省の「2016年度ふるさとテレワーク推進事業」に採択されたことがきっかけで入居した。

・18年には白浜町と「新たなワークスタイルづくりに関する包括連携協定」を締結した。このことから役所内の働きかけや様々な人の紹介がありメリットを感じている。

・数人体制で業務遂行しているが、それぞれ勤務体制は異なる。月に数回も出張来訪する場合や単身赴任している者もいる。

・東京出身なので、白浜というと伊豆をイメージしていたが、和歌山県とは思いもしなかった。そんな人は少なくないと思われる。

・窓から見える太平洋の眺望はこれまでになく、特に海に沈む夕日の光景は抜群。

◎事例2は「白浜町第2ITビジネスオフィス

施設管理者は白浜町。元は公園管理事務所。1階は管理事務所とコワーキングスペース、2階をオフィスへリニューアルし、18年6月に開設。

◎事例3は「ANCHOR(アンカー)

施設運営者は民間企業のOS株式会社(阪急阪神東宝グループ)。白浜町によると、遊休施設をリノベーションし、20年11月に開設。

◎事例4は「Office Cloud9(オフィスクラウドナイン)

施設運営者はオリエンタルコンサルタンツなどの民間企業。22年秋に新築竣工の木造平屋建。オフィス、打合せ室、会議室などを備える。

以下、同社管理者の話は以下のとおり。

・この施設は南紀白浜空港に隣接し、羽田空港と一日3定期便があり、交通利便性が高い。

・建物は木造。自然の中をイメージし、世界遺産の熊野本宮大社の屋根をモチーフするなど、特徴的な建物フォルムをもつ。平屋建であるのは航空法の関係。

・オフィス専用エリアは7つあり、それぞれ専用シェアスペースがある。また、一般利用エリアでは、個室ブース、一般向けシェアスペースもあり、企業間交流も可能である。

■ワーケーションがもたらす効果とは?

では、その効果とはどんなものだろうか。

和歌山県が実施した、09年度「和歌山ワーケーションファムツアー」でのワーケーションの効果検証結果が公開されている。これによると、企業目線での仕事のパフォーマンスは向上。社員目線での活気も上がっている。地域目線では、地域への愛着度への貢献もみられるなど、一定の効果はあるようだ。

一方、上記事例1でのヒアリングでは、「生産性向上については明確な指標がないので定量的には判断しづらい」というコメントがあった。ただ、同時に「この地に一定期間滞在した結果、個人的にはワークライフバランスという視点では少なからず寄与しているように感じている。その結果、生産性は上がっているだろう」という意見もあった。

冒頭の、筆者が提唱した「地元ワーケーション」という働き方は遠隔地ではなく、身近な不動産を利活用するものである。目的の一つは業務の効率を図るものであり、また、未稼働・低稼働不動産を使うことによる地域寄与や、事業者にとってコストダウンを図るという副次的効果も伴う。しかし、最大のポイントはストレスが抑えられた快適な環境にて仕事が行えるという点だと感じている。

一方、今回の「ワーケーション」にも上記のようにプラスの効果が発揮されているようだ。加えて、単なる経済的価値には表しにくい要素が含まれている。

というのも、関係者からの話で共通していたのが、単に遠隔のリゾート地で働く心理的価値だけでなく、滞在しているエリアで様々な人たちと関わるなど、事業者同士の交わりや協業にも意義があるというものだった。

自然だけを求めるなら、人のいないエリア、いわゆる過疎地域に赴けばいい。極端な話、人がいない無人島でもいいだろう。でもそうではない。

それを裏付けるような、ある人の言葉が印象的だった。

「昼間はきれいな海を眺めながらビジネスプランをデザインする。夜はまちに出かけ、事業者同士が集い、親交を深める。そこで新しいビジネスアイディアが生まれる」。

■おわりに

本来的な「ワーケーション」、そして「地元ワーケーション」、どちらもこれまでとは趣きが異なる働き方である。ただ、いずれの場であっても、ワーカーが求める働くことの理想形は変わらないのではないだろうか。そんなことをあらためて気づかされた。どちらも将来の姿が楽しみである。

■略歴■
不動産鑑定士トシこと深澤俊男(ふかざわ・としお)。不動産業界に30年以上。CBRE総研大阪支店長を経て、深澤俊男不動産鑑定士事務所代表、株式会社アークス不動産コンサルティング代表取締役。「物言わぬ不動産と都市不動産マーケットの語り人」として、中立的な立場で独自視点の調査コンサル・講演活動などを行う。上場企業、自治体、各種団体、大学など独立後13年間の講演・講義回数は約300回。その他、本邦初のサービス「ビル史書」や「地跡書」を展開中。趣味は旅行。全国47都道府県に足跡がある、自称「ほっつきWalker」。こちらから「☆コラムちらし☆20221014☆」をダウンロードできます。