筆者にとって夏の風物詩はいくつかある。そのうちの一つは甲子園での高校野球。今年で104回目と歴史を感じさせる。今回、コロナ禍もあって3年ぶりにスタンドで一般客が観戦可能となった。高校時代に白球を追いかけていたことから、筆者も感情移入してしまう輩の一人である。この夏も大いに心を揺さぶられた。
もう一つは大学講義。恒例の近畿大学の夏季スクーリング講義である『不動産論』を受け持っている。毎年8月に開催され、14回目の夏である。昨年のコラムにて、大学の建学精神や講義概要について触れているので、詳しい内容についてはそちらを参照いただきたい。
今回は、講義中に、住まいについての意識を実施したアンケート結果を紹介する。
その前に、設問項目を作成するにあたって参考とした公表調査を概観してみよう。
■毎年注目している調査
国土交通省にて、1993年(平成5年)から実施されている調査がある。名称を「土地問題に関する国民の意識調査」という。その最新版である「令和3年度土地問題に関する国民の意識調査」が今年も公表された。
そこには、土地や建物などの不動産、特に住宅に対する国民の様々な意識がまとめられている。中でも、世間一般でよく議論されている、自宅について所有と賃借のどちらを選好するのかという設問がある。同調査内では「所有と賃借の志向」という項目だ。
その結果は〔図1〕の通り。
〔図1〕国土交通省資料より
1994年(平成6年)には、「土地・建物については両方所有したい」との回答が、83・5%であったのが、徐々に減少し、直近の2021年には、66・7%まで下がっている。特にコロナ禍の直近2年間はその傾向が顕著で、連続して7割を下回っている。ただし、コロナ禍前にもその傾向は少なからずみられ、2012年からは継続して8割を下回っている。これらのことから、平成初期のような所有志向が大多数を占めていた時代から徐々に変化しつつあることが見てとれる。
一方、近時「わからない」との回答も大幅に増加している。この要因の一つはコロナ禍の中、判断を決めかねている状況にあったことが推測され、このカテゴリーの人々がアフターコロナにどう行動するか気になるところである。
■受講生アンケート結果の概要
話を講義のアンケートに戻そう。その結果をまとめたものが、株式会社アークス不動産コンサルティングの公表情報に掲載されている。以下、紹介する。
◇質問1:ご自身が住むための住宅の所有について、どのようにお考えになりますか?
所有と賃借の志向については、aの「土地・建物については、両方所有したい」が最も多く、約67%を占めた。その理由としては、●生活や権利の不安定さを筆頭に、●有利な資産だから、●家賃等よりローンを支払う方がよいが続いた。講義の中でも、土地・建物といった資産を持つことに対する優位性を認める意見が多く聞かれ、土地・建物の資産価値については依然として重要な位置づけであることを感じた。
◇質問2:あなたにとって今後望ましいと考えている住宅の形態はどのようなものですか?一戸建てですか。マンションですか。
一戸建てとマンションの志向については、一戸建てがマンションよりもやや多く約55%を占めた。その理由として、●隣家との関係で気をつかわなくていいからが最も多く、近隣住民とのトラブルについて関心が高いことが推察される。一方、マンションを志向する理由としては、一戸建てほど突出した回答は少なく、多岐にわたる印象を受けた。
◇質問3:あなたは、お住まいの立地として、どのような点を重視しますか?その中で、1番と2番は何ですか。
住まいの立地として1番に重視するもののうち最も多かったのは、●日常の買物など、生活の利便性が高いことで、他とは大きな差があった。また、1番と2番に重視するもののどちらも選ばれていた項目は、●治安が良いことで、住まい環境のマイナス要因に対しての意識の高さを物語っているように感じた。
なお、このアンケートは受講生のうち、有効回答を得られたもの(30サンプル)をまとめたものに過ぎない。よって、ここから言えることは限られているものの、全国から集まった、多様な人たちの意識サンプルであり、直接伺った定性的な意見とあわせて、参考の一つとしたい。
また、結果をみて驚いたのは、質問1について、国交省調査と今回のアンケート調査の結果が奇しくもほぼ同じ傾向だったことだ。引き続き、対面での声にも注目していこうと考えている。
■終わりに
社会人になり仕事を始めて30数年が経過した。様々な業務に携わってきたからか、色んな属性の方々との関わりがあった。その一つに、この大学講義での一般の方々がいる。
毎年、受講生に講義についての感想文を提出してもらうが、率直な感想は筆者にとって貴重な財産であり、宝物である。中でも、忘れられない一つを紹介してみたい。
「(前略)人生の最後にとてもためになる勉強ができて、大変嬉しかったです。冥途の土産になりました。(後略)」と丁寧な文字で綴ってあった。その人は70代の女性。生涯学習をまさに実践されており、それに相応しい深みのある文面だった。
読み終えた際に、残り少ない人生の貴重な時間を筆者の講義に割いてもらった感謝の念と、自らの講義を振り返りつつ、今後、益々励まねばならないと心に誓ったことを思い出す。
甲子園とともに、筆者の2022年の夏も終わった。来年の夏はどんな出会いがあるのだろう。来年を心待ちにしている。
■略歴■
不動産鑑定士トシこと深澤俊男(ふかざわ・としお)。不動産業界に30年以上。CBRE総研大阪支店長を経て、深澤俊男不動産鑑定士事務所代表、株式会社アークス不動産コンサルティング代表取締役。「物言わぬ不動産と都市不動産マーケットの語り人」として、中立的な立場で独自視点の調査コンサル・講演活動などを行う。上場企業、自治体、各種団体、大学など独立後13年間の講演・講義回数は約300回。その他、本邦初のサービス「ビル史書」や「地跡書」を展開中。趣味は旅行。全国47都道府県に足跡がある、自称「ほっつきWalker」。こちらから「☆コラムちらし☆20220902☆」をダウンロードできます。