【コラム・不動産鑑定士トシの都市Walker】近畿2府4県主要駅での路線価トレンド~曖昧さを受入れ、少し長い目でみては?~〈22/7/22新規〉


 

前回コラムにおいて、平成30年(2018年)から令和4年(22年)の4年間につき、大阪都心を南北に縦断する地下鉄御堂筋線各駅に近接する最高路線価トレンドを紹介した。個人的には大雑把な調査だと感じていたが、路線価の馴染み易さだろうか、一定の反響を得た。そこで、同様の調査を他のエリアでも実施した。今回は、それらを紹介しよう。

■オリジナル調査(地下鉄中央線の路線価トレンド)

大阪都心を東西に横断する地下鉄中央線のトレンドを調査した(公表資料「大阪都心の路線価トレンド調査(地下鉄中央線の各駅路線価:2022年7月期)」。

前回とほぼ同様であるが、あらためて、その調査概要と特に留意する点を補足した。

1)弁天町駅から森ノ宮駅までの各駅に近接する中で最も高い路線価をそれぞれ抽出

2)同地点のコロナ禍前の①(18年から20年)、コロナ禍中の②(20年から22年)の2期間に分けた。

3)それぞれの価格トレンドを指数化して、各期間を比べた。

活発な動きをしているのは、まずは、本町、阿波座、そして弁天町。次いで、堺筋本町、谷町四丁目。逆に最も落ち着いているのは九条。近隣に大阪公立大学の新キャンパスが予定されている森ノ宮はこれらの中では目立たない存在であった。

一方、特徴的なのは弁天町。20年から22年の期間において僅かながら上昇している。②の期間が上昇しているのは、御堂筋線13駅、中央線7駅の調査対象20駅のうち、当駅のみであった。万博・IRが話題となったコロナ禍前には、中央線沿線の取引がややブームとなりかけたという話があったが、その余波が影響したのかもしれない。

■オリジナル調査(近畿2府4県の主要14駅での路線価トレンド)

同様の前提で、近畿2府4県の府県庁所在地6地点の中心駅至近の最高路線価の動きをみた。合わせて、兵庫県、大阪府、京都府、滋賀県の4府県から、上記以外の主要駅を2つずつ選択した8地点の、合計14地点において、同じ調査を行った(公表資料「近畿圏の路線価トレンド調査(近畿2府4県の主要駅路線価:2022年7月期)」。

まず、府県庁所在地の6地点については、動きが目立つのが梅田(各線)と阪急三宮、そして阪急河原町と近鉄奈良が続く。そして僅かに上昇しているJR大津と動きがないJR和歌山。

一方、前者4地点の②の期間の動きは①の期間のそれを大幅に下回る。すなわち、4年間トータルでプラスを示している。

次いで、府県庁所在地以外の8地点については、JR姫路、南海堺東の動きが目立つ一方、これら以外はそれほど大きな動きはみられない。

なお、②の期間に下落しているのは姫路と宇治の2地点のみで、どちらも観光客が多いという共通点があるが、特に宇治は一般に言われているほど大きな下落ではない印象がある。

結果、4年間のトータルトレンドについては、これら14地点全てがプラスないし横ばいである。駅近接の最高路線価を踏まえた場合、いずれも路線価は下がっていないのである。

これら2つの調査から、昨年比という短期的な視野で地価情報に注目するだけではなく、コロナ禍前とコロナ禍中という少なくとも数年単位でその動きを見ることで、大きな流れを掴むことも大事なのではないだろうか。前回コラムでも触れたとおり、単年度のドラスティックな上下動よりも一定期間をみた方がトレンド把握には適していると思える。ただ、ニュースとしては正直なところ面白味に欠け、世の中へのアピール度は高くないという現実的な面はあるが…。

 

■路線価は地価水準を把握するための手段の一つ、気軽に使おう

相続税路線価は、国税庁が毎年発表しているものであるが、その目的は課税のためである。

要は売買などの参考価格としての位置づけではないのだ。しかし、実態は公示地価などの8割程度とされていることから、地価水準をつかむための判断材料とされることが多い。また、市街地であればほぼ全ての路線に設定されているため、網羅性が高く、その利用しやすさなどから、他の公的評価である地価公示や地価調査よりも一般の認知度は高い。よって、取引の実務家である不動産業者はもちろん、一般人にも路線価ユーザーは多い。

一方で、これをもって地価動向とすることに否定的な意見もある。制度趣旨からしてその言い分もうなずける。実際、土地の大きさ、接道状況、形の良しあしなどその個別的な要素を含まない路線価はそもそも大まかな水準を示したものにすぎない。

しかし、大雑把な価格水準やその変動状況を掴みたいならそれで充分という意見があるのも事実だ。厳密な適正価格を知りたいなら、有償で鑑定評価を取得するなど然るべき方法に委ねればよい。だからこそ誰でもアクセス可能な公表情報であるこの指標を、あまり堅苦しく考えることなく、気軽に使えばよいのではと感じている。

■おわりに

昨今、厳格化、厳密さを求める風潮が目立つ。そもそも不正な手段は許されるべきではないし、誤りは正さなければならない。これは当然である。ただ、物事全てにおいて行き過ぎた厳格さは自由度を奪い、斬新な発想の種の発芽や成長に影響を与える可能性はないだろうか。特に生命にかかわるもの以外はもう少し余白部分があっていいように感じている。

近時、目にするワード「VUCA」。Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)の頭文字をとって、ブーカという。

将来をイメージするには、いわゆる「不透明な時代」よりも、個人的には「ブーカの時代」の方がしっくりくる。特に、この中の「曖昧」という言葉が気になっている。

これまで我々は、対象を綿密に分析し、それに基づき詳細なプランを立てて実行する。そんなやり方を常に課され続けてきたように思う。もちろんそれは十分意義のあることだが、トレンドの把握という点については、もっとバクっとした感覚、大雑把なものでいいのではと感じている。その理由の一つとして、どんなに緻密に行ったとしてもそれを覆すほどの想定外のことが起こり続けているからだ。

全てを数値化し様々なエビデンス(根拠)を作成するために膨大な時間と労力を注ぐことや、白か黒かという判断基準は、何となく窮屈で、未来が行き詰まるように感じるのは筆者だけではないだろう。

この世に完全無欠なものなどないのだから、曖昧さを受け入れ、もっと大らかに世の中を見ていきたいものである。

■略歴■
不動産鑑定士トシこと深澤俊男(ふかざわ・としお)。不動産業界に30年以上。CBRE総研大阪支店長を経て、深澤俊男不動産鑑定士事務所代表、株式会社アークス不動産コンサルティング代表取締役。「物言わぬ不動産と都市不動産マーケットの語り人」として、中立的な立場で独自視点の調査コンサル・講演活動などを行う。上場企業、自治体、各種団体、大学など独立後13年間の講演・講義回数は約300回。その他、本邦初のサービス「ビル史書」や「地跡書」を展開中。趣味は旅行。全国47都道府県に足跡がある、自称「ほっつきWalker」。こちらから「☆コラムちらし☆20220722☆」をダウンロードできます。