2022年(令和4年)相続税路線価(以下、路線価)が1日に発表された。同日午前にネットニュースで配信され、その後のニュースや夕刊、翌朝の朝刊にて、その内容が報じられている。
このうち、翌日の新聞朝刊について、大手5紙の掲載状況を整理してみた。
読売新聞が4か所、産経新聞が2か所、朝日新聞が2か所、毎日新聞が2か所、日経新聞が2か所で、そのうち1面掲載は読売新聞のみだった。
以前、路線価発表の翌日は、1面をはじめ、総合面、経済面、社会面、そして地域版と数か所にわたる記事が並んでいたものだが、ネットの速報性との関係などから紙媒体での取り扱いが変わってきた印象がある。
これらの発表を踏まえて、一般の人たち向けにいくつか伝えたい。
1.路線価は22年1月1日時点の価格であること
2.価格水準のトレンドを見る際には、その対象とする期間に気を付けたいこと
■路線価は半年前のもの
路線価は毎年1月1日時点の価格が7月上旬に発表される。よって、そこには半年間のタイムラグが生じている。価格変動が大きくない時期ではあまり気にする必要はないが、昨今の不動産市場の変動状況そして、コロナ禍を経た時期においてこの半年という期間は看過できない。
これまでのコラムでも記載したが、今一度、それを踏まえた上で利用したい。
■オリジナル調査からみた路線価トレンド
前述した、各種報道においては「2年ぶり上昇」や「都心下落」などいう表現が目立った。これらは全て事実である。ただし留意したいことがある。そこで、以下、弊社が実施したオリジナル調査結果を紹介しよう。
平成30年(18年)から令和4年(22年)の4年間について、地下鉄御堂筋線各駅に近接する路線価での比較を行った(公表資料「大阪都心の路線価トレンド調査(地下鉄御堂筋線の各駅路線価:2022年7月期)」)。
内容は同資料に委ねるが、その調査概要と特に留意する点を補足した。
1)江坂駅から天王寺駅までの各駅に近接する中で最も高い路線価をそれぞれ抽出した。
2)同地点のコロナ禍前の①(18年から20年)、コロナ禍中の②(20年から22年)の2期間に分けた。
3)それぞれの価格トレンドを指数化して、各期間を比べた。
活発な動きをしているのは、北部では、江坂、新大阪、そして梅田。特に、新大阪は①の期間、上記御堂筋線の中で最も上昇の程度が高い。
しかし、②の期間において、新しいビルが多く竣工を迎え、賃料水準が下落している模様で、コロナ禍と相まって地価下落にも影響している。ただし、公表資料の①と②の差をみると、4年間トータルでプラスであるし、むしろ13駅の中で最もプラスの程度が高い。
同じく南部では、なんば、心斎橋。こちらも同様に、4年間トータルでプラスをキープしている。大幅に下落している印象があるが、インバウンドの恩恵を受けた時期でのプラス分があるため、4年間トータルでマイナスには至っていないのである。
よく引き合いに出されるミナミの中心繁華街などは、この数年間の著しい上昇分が下がったに過ぎないという意見がプロの間でも多く聞かれるのが頷ける。
一般に、トレンドとは傾向を示し、ある時点と別の時点の変化の方向性や程度を表現したものである。言い換えると、基準となる点(ア)に対し、対象となる点(イ)がどの位置にあるかという相対的な関係を示している。大雑把にいうと、通常、(イ)÷(ア)のように表される。
ただ、この値は元々の(ア)次第でその位置づけが少なからず影響を受ける。すなわち、元々が低ければ変化の程度は大きくなるし、高ければそれは小さくなる。そんなごく当たり前のことを踏まえておく必要があるのではないだろうか。
また、短期にみればみるほどその動きはドラスティックに感じるが、少し視野を広げ長期にみるとそうでもない場合もあるのだ。
要するに、トレンドを表す指標とは相対的であることをまず認識しておきたい。また、今回のコロナ禍の前後では、上昇・下落が著しかった短い時期のみを着目してしまうと大きな流れを見落とすことがあるため、ある程度まとまった期間を俯瞰することも大切ではないかと感じている。
ちなみに、上記で紹介したような繁華性の高い場所やビジネス中心街など特定の商業地のトレンドはその他のエリアに直接波及するものではない。それが地域全体の傾向とは異にする場合があることも理解しておきたい。
■おわりに
以前のコラムでも触れたが、「こんなことはわかっているだろう」などという業界の常識に思い過ごしがあることは珍しくない。
ここのところ、一般人のみならず、業界のプロの方々からも思いがけない好意的な意見を頂くことがある。それらがある限り、筆者がこのような発信を続けていく存在価値はあると感じている。
22年下期、リアルな講演やセミナーの依頼が増えてきた。引き続き、直接聞き手に語り伝えていこう。
■略歴■
不動産鑑定士トシこと深澤俊男(ふかざわ・としお)。不動産業界に30年以上。CBRE総研大阪支店長を経て、深澤俊男不動産鑑定士事務所代表、株式会社アークス不動産コンサルティング代表取締役。「物言わぬ不動産と都市不動産マーケットの語り人」として、中立的な立場で独自視点の調査コンサル・講演活動などを行う。上場企業、自治体、各種団体、大学など独立後13年間の講演・講義回数は約300回。その他、本邦初のサービス「ビル史書」や「地跡書」を展開中。趣味は旅行。全国47都道府県に足跡がある、自称「ほっつきWalker」。こちらから「☆コラムちらし☆20220708☆」をダウンロードできます。