※かつての千葉マリンスタジアムの光景
先月、千葉ロッテマリーンズの佐々木朗希投手(以下、朗希)が完全試合を達成した。プロ野球28年ぶりの快挙を20歳の史上最年少で成し遂げた。いつかはやると思っていたが、こんなに早く演じるとは。
筆者は10年くらい前から千葉ロッテマリーンズのファンである。それ以降、「ほっつきWalker」が「追っかけWalker」となり、全国を観戦行脚している。
各地に赴くと聞かれるのがこのフレーズ。それは「どこにでもいるタイガースファン」、そして「どこにでも行くマリーンズファン」。まさしく筆者にぴったりのチームだ。
そんなマリーンズに、2年前、朗希はドラフト1位で入団した。
彼がルーキーの2020年2月、コロナが話題になり始めた頃、石垣島キャンプに訪れた。そこで、朗希を初めて間近にみた。身長190㌢㍍。細身なのでとにかく背が高く見える。反面、小顔でまだ幼さが残り、そのギャップが愛らしい。宝の原石の彼に多くの報道陣が集まり、スポーツ番組にて特集が組まれ放映されていた。まだ、一球も投げていないのに。
【石垣島キャンプでの取材風景】
それから、マリーンズは驚きの育成方針をとる。1年目のシーズンは一切投げさせず、体作りを優先。2年目には一軍デビューさせたが、登板間隔を長く空ける育成策を行った。高校三年の夏の甲子園大会岩手県予選決勝での登板回避は当時物議を醸したが、球団はその方針を引き継ぎ、貫いている。これまでの常識とは一線を画すものだった。
先日、同じパリーグのソフトバンク千賀投手が興味深いコメント「3割打者が存在しない時代が来る」を発している。朗希の投球を称賛した上で、投手の力量は年々アップしているが、打者はそこまでではない。今後、3割打者は出現しないのでは、と。近年、久しく「打高投低」が叫ばれている中、現役投手によるこの眼力は恐れ入るし、これもこれまでの常識とは異なる意見だ。
翻って、不動産業界はどうだろうか。過去の常識にとらわれすぎていないだろうか。学ぶことはないだろうか。
その昔、他業界からきた、ある人に言われた言葉を思い出す。
「不動産業界は100年、遅れてますね。」
「業界のなんたるかを知らない輩がなにゆうとんねん。」口には出さなかったが、それが偽らざるホンネだった。ただ、冷静に考えるとその通り。同時に、それだけ遅れているからこそチャンスは大いにあるのではないかと思ったし、今では金言と感じている。
それからしばらく時が経つが、不動産業界は時代に追いついたのだろうか。
さて、今回の完全試合で、常識にとらわれないことに加え、いくつかの事実を再確認した。
一つ目は野球も仕事も一人ではできないということ。
完全試合とは、一人のランナーも出さないことである。とすると、投手のみならず、チーム全員の協力が不可欠である。球を受ける捕手、打球を処理する野手たちの失策は許されない。また、点を取らないと勝てないことから、打点をあげるバッターの存在。先日もあったが、9回まで味方が得点をとれなかったばかりにパーフェクトを逃した投手はこれまで少なくない。要するに、関わる人たちが一致団結しないと達成できないのだ。
これを業界に置き換えて例えると、不動産オーナーを取り巻く様々なプレーヤーとして、施工会社、設備業者、管理業者、金融機関など数え上げればきりがない。そうした関わりを持つ人たち全てが最高のパフォーマンスを発揮してパーフェクトな仕事が成せるのではないだろうか。そのためには深い信頼関係と強固なチームワークが必要になるのは言うまでもない。
二つ目は若い人の感性や才能を見出し、活かし、任せること。
今回の完全試合でもう一人脚光を浴びている人物がいる。松川捕手だ。朗希の2歳年下で18歳。この3月まで高校3年生だった彼が、朗希を引っ張っている事実だ。
捕手の大事な役目の一つは投手との信頼関係のほか、気持ちよく投げさせることである。その点、彼は太鼓判を押されている。高卒ルーキー捕手の完全試合サポート。これもこれまでの常識を打ち破る出来事で、捕手はプロの水に慣れるまで使わないという固定観念は不要とさえ思える。
筆者を含めた中高年世代は、もっと若い人の感性に耳を傾ける必要があるだろう。彼らは想像以上の力を秘めている。そこには我々年齢を重ねたものがキャッチできない別世界があるのかもしれない。人の生活や暮らしに直結する不動産業界はより彼らの感性を取り入れるべきで、そのためには、まず彼らに気持ちよく動いてもらう姿勢を心がけることが必要だろう。
【石垣島キャンプ】
石垣島キャンプでの、とある日の早朝。目の前でみた朗希のナマあくびが忘れられない。当時、高校在学中の18歳。社会経験もなくおぼつかない足取りで社会に出ようとしている、まだ大人になりきれてない青年。そんな彼がわずか2年で世界を驚愕させることをやってのけた。名実ともに「令和の怪物」誕生である。
ここのところ、心を戸惑わせる出来事が世界中で起こっている。そんな中、誰もが無条件でその偉業を称える嬉しいニュースをもたらしてくれたことに感謝している。野球を愛するファンの一人としてこれからも応援していきたい。
そして、いつの日か、冒頭の写真のように「朗希!」と大声で応援ができることを心の底から望んでいる。
■略歴■
不動産鑑定士トシこと深澤俊男(ふかざわ・としお)。不動産業界に30年以上。CBRE総研大阪支店長を経て、深澤俊男不動産鑑定士事務所代表、株式会社アークス不動産コンサルティング代表取締役。「物言わぬ不動産と都市不動産マーケットの語り人」として、中立的な立場で独自視点の調査コンサル・講演活動などを行う。上場企業、自治体、各種団体、大学など独立後13年間の講演・講義回数は約300回。その他、本邦初のサービス「ビル史書」や「地跡書」を展開中。趣味は旅行。全国47都道府県に足跡がある、自称「ほっつきWalker」。感想をこちら(info@arc-s.biz)までお寄せください。こちらから「☆コラムちらし☆20220513☆」をダウンロードできます。