西日本旅客鉄道(JR西日本)は今春のダイヤ改正で、1日当たり533本と過去最大の減便を行ったという。2021年3月と10月に続くものである。
一方、在阪私鉄各社では大幅なダイヤ改正のニュースはそれほど聞こえてこない。ただし、今春の各社決算見込みは21年より改善しているものの例年と比べて思わしくない。
どちらもコロナ禍における運輸収入の大幅な減少が主な要因であることは間違いないだろう。今後のコロナ禍収束の不透明感、さらに将来の人口減少なども見据えると、各社とも中長期的に収益改善が課題である。
■在阪鉄道会社の高架下を利用した事業あれこれ
かなり以前から鉄道会社は運輸事業以外に様々な分野に進出していた。鉄道会社の関連事業というと、沿線住宅などの不動産開発にはじまり、バスやタクシーといった交通事業のほか、ホテル・百貨店事業などが主流だった。特に駅という継続的かつ安定的な集客装置を持つ各鉄道会社は、駅ビルといった商業施設などの開発を中心としてきた経緯がみられる。
これまでの駅直結や至近などに加え、昨今は鉄道高架下での試みが増えている。今回はその高架下事業に注目した。
JR西日本グループは、「高架下事業」として複合商業施設と高架下開発を位置付けている。
ブランド名「ビエラ」という名の複合商業施設を沿線各地に展開しており、JR野田駅や同森ノ宮駅、同桃谷駅など各駅の高架下に物販店舗や飲食店などが入居している。
【ビエラ野田(JR西日本不動産開発HPより)】
また、駅舎に直結していない高架下の開発として、JR福島駅付近、中崎町(JR大阪駅-JR新大阪駅)などがある。
【JR福島駅付近高架下(JR西日本不動産開発HPより)】
南海電鉄は、2014年から、難波駅―今宮戎駅間の高架下を利用した「なんばEKIKANプロジェクト」を進めている。そのコンセプト「あたらしいつながりへ」は特徴的だ。歴史的高架構造物の造形美と現代風の各種店舗のコラボが独特の空間を作っている。
阪急電鉄では、19年に「茶屋町あるこ」がオープン。元々は「古書のまち」として親しまれた場所であるが、その移転・リニューアルで梅田高架下の雰囲気が様変わりした。
また、20年、宝塚線豊中-岡町間の高架下へ豊中市南部に所在していた阪急バスの本社が移転した。阪急グループ会社間とはいえ、本社施設を高架下に設けるという希少事例であろう。
これらのほか、特徴的な試みを重ねているのが、阪神電鉄である。
同社は、12年、杭瀬駅-大物駅間の高架下に野菜栽培所を開設した後、14年に尼崎センタープール前駅に野菜工場を建設し、様々な商品を栽培、販売している。
また、19年には武庫川女子大学とタイアップし、「武庫女ステーションキャンパス」をスタートさせ、サテライトキャンパスやアネックスなど高架下活用がみられる。
このように、高架下では従来の利用に加え、新たな活用スタイルが広がりつつあるのだ。
■近鉄グループの「賃貸ガレージハウス」が高架下にて稼働間近
そんな中、関西鉄道会社の中で、最も営業路線距離の長い近畿日本鉄道と近鉄不動産が高架下にて新しい事業「賃貸ガレージハウス」に取り組んでいる。昨年10月に発表されたこの事業の建物内覧会が催された。
場所は近鉄奈良線「河内花園」駅東側徒歩4分の高架下で、建物は軽量S造2階建。2戸で1棟の連結スタイルが6棟並んでいる(以下の写真は3棟のみ)。
3月に竣工し、賃借人の入居開始は4月を予定している。
近鉄不動産によると、近鉄グループにおける高架下事業は、これまで駐車場や商業施設など限られたものであったが、今回、高架下における賃貸ガレージハウス事業を初めて手掛ける。
なお、一般にガレージハウスとは、用途としては車庫付き住戸。直訳するとガレージハウスとなるが、明確な基準はなく、慣習的に使われている名称だという。
このプロジェクトにおける住戸規模はタイプ1(55・91平方㍍)が8戸、タイプ2(66・07平方㍍)が4戸。各住戸の1階がそれぞれガレージとなっている。ちなみに、募集条件はタイプ1が月額14万5000円、タイプ2が月額17万5000円。それぞれ別に共益費が月額7000円と設定されている。
【タイプ1の1階内部】
【タイプ1の2階内部】
【タイプ2の1階内部】
【タイプ2の2階内部】
事前調査では、高級車や高級バイクを安全においておく場所がなく、ニーズはあると想定していた。16日時点で、12戸のうち10戸の申込済み。高級車オーナーが大半で、地元東大阪市在住の中小企業経営者などが主たる需要者層とのことである。
高架下というと気になるのが騒音であるが、この場所は軌道の種類がロングレールを使用しているため継ぎ目がなくあまり音がしない。また、高架部分と建物が2㍍近く物理的に離れており、何もない空間があるため、電車音や振動が伝わりにくいという。実際に体感したが、電車の通過にともなう音はほとんど気にならなかった。
近鉄は総延長約500㌔㍍の沿線を有し、うち約42㌔㍍が高架とのこと。今後も近鉄南大阪線や名古屋線など数か所を候補地として検討を進めており、CRE(企業不動産)戦略の一環として、積極的にこの事業を展開していく予定である。
■まちの「デッドスペース」高架下の利活用に期待
いつの頃からだろうか。「まち」の中で、常に日の当たるところとほぼ日が当たらない場所ができたのは。建物が高層化し、人の視線や視界が上へと移動していくなど、注目される開発とそうでないものとの格差は以前から存在し、そして広がり続けているのだろうか。
以前、都心における低未利用地の実態について大がかりな調査をしたことがあるが、そこには使われていない土地が想像以上に多く存在した。それらは虫食い状態で使い物にならない「死に地」と呼ばれることもある。
また、建物内で使われない部分は「デッドスペース」と称されることが多いが、「まち」にもそんな場面が目立つようになっていく様を、複雑な思いでみていたことを思い出す。昨今、社会問題となっている空き地、空き家とともに、低未利用地の利活用は従来から存在する「まち」の課題であろう。
高架下はいわばその一つで、商業施設として利用可能な駅直結といった花形立地を除き、従来は駐車場などといった限られた使い道しかなく、「まち」の「デッドスペース」に過ぎなかった。そんな場所だからこそ、むしろ逆転の発想で再生させる妙味を感じさせる。
これまで日の目を見ることがあまりなかった鉄道高架下の様々な取り組み。コロナ禍で運輸事業が伸び悩み、少なからず打撃を受けた鉄道各社が眠っている資産を蘇らせる試みに努めている。日陰の存在がそのベールを脱ぎ、潜在ポテンシャルを発揮する時代がそこまで来ているのかもしれない。
■略歴■
不動産鑑定士トシこと深澤俊男(ふかざわ・としお)。不動産業界に30年以上。CBRE総研大阪支店長を経て、深澤俊男不動産鑑定士事務所代表、株式会社アークス不動産コンサルティング代表取締役。「物言わぬ不動産と都市不動産マーケットの語り人」として、中立的な立場で独自視点の調査コンサル・講演活動などを行う。上場企業、自治体、各種団体、大学など独立後13年間の講演・講義回数は約300回。その他、本邦初のサービス「ビル史書」や「地跡書」を展開中。趣味は旅行。全国47都道府県に足跡がある、自称「ほっつきWalker」。感想をこちら(info@arc-s.biz)までお寄せください。こちらから「☆コラムちらし☆20220318☆」をダウンロードできます。