■大阪中之島美術館がオープン
大阪市のホームページが2021年6月に公開した大阪中之島美術館整備計画には、「本市が所蔵する第一級のコレクションを活用して、市立美術館や東洋陶磁美術館とは異なる新たな魅力にあふれる美術館を21年度の開館をめざして整備することにより、歴史的にも文化的にも豊かな含蓄をもつ中之島の魅力向上に貢献します」とある。
その大阪中之島美術館がこの2日にオープンした。市内のあちこちでそのポスターを目にし、報道機関など様々な媒体でこの名前を見聞きすることから、その関心の高さを感じる。
同美術館のホームページによると、1983年に、大阪市制100周年記念事業基本構想の一つとして近代美術館が構想されている。その後、90年に準備室が開設されたものの、財政難などもあり計画は紆余曲折。当初から約40年を経ての完成となる。関係者にとっては悲願であったオープンが叶った。
建物は地上5階建て、施設全体の延べ面積は約2万平方㍍と関西最大級。大阪ゆかりの佐伯祐三やモディリアーニなどという国内外の作品など、近・現代の6000点を超える美術品が収蔵されている。
なお、PFI手法であるコンセッション方式を、日本の美術館として初導入したことも話題であり、民間事業者が経営に直接携わることも注目されている。
■開館まもなくの大阪中之島美術館に訪れてみた
週末で天気がよかったこともあり、建物の周りには多くの人々がみられた。
(写真:1階南側エントランス)
建物内の配置図(フロアマップ)によると、通行可能な入口は1階の北側と南側にあり、1階東側入口は工事中で、その隣にはショップエリアが予定されているとのことだった。
(写真:建物南東側)
また、2階へは外部から直接入ることのできる階段が、北側と南東側に配置されている。その2階内部のチケット売り場前に並ぶ人の列は、館内に収まらず、建物外まで続いていた。その光景はコロナ禍とは思えないほどの盛況さで、美術館内(4階、5階)への入場するためには相当の待ち時間が予想される状況であった。
■中之島にある数々の美術館
中之島は、東西約3㌔㍍、南北最大約300㍍の堂島川と土佐堀川に挟まれた島状の形で、その面積は約72㌶。その中の東部エリアには中之島公園のほか、主に大阪市役所、大阪府立中之島図書館などの公共公益的な施設が所在する。中央部エリアには高層オフィスビルなどを中心とした事業用建物が集積している。西部エリアにはオフィスビル、ホテル、会議場、高層マンションなど様々な用途利用がなされている一方で、文化的施設も多くみられる。
これらすべてのエリアに4つの美術館が点在している。冒頭の大阪中之島美術館以外の3つは以下のとおり。
上記大阪中之島美術館の南側隣接地に所在する。2004年に万博公園から移転の上、竣工。現代美術を中心とした美術館。地上部分はエントランスのみで地下に展示スペースがある。地上のオブジェはスチールパイプを用いたシンボリックな外観が特徴的である。
公益財団法人香雪美術館が神戸市東灘区御影の本館に次ぐ2館目の美術館として2018年にオープン。中之島フェスティバルタワー・ウエストの4階に入居し、日本と東アジアの古美術品が展示されている。
中之島東部に位置する。世界的に有名な「安宅コレクション」を住友グループ21社から寄贈されたことを記念して、大阪市が設立した東洋陶磁専門の美術館。1982年に開館。
■美術館などの文化的施設がもたらすもの~海外の事例から~
以前、パリのルーブル美術館やロンドンの大英博物館に赴いたことがある。美術品や芸術作品のなんたるか、そのよしあしは正直よくわからない。
ただ、そこに集う人たちを見て気づいたことがある。それは、さまざまな属性の人たちがいて、人種、国籍、性別、年齢などを超越した場であったということ。世界中から多くの人を集めるそのパワーに驚いたものだ。文字が読み書きできない子供にも訴えられるし、芸術に明るくなくとも、何となくすごいということが体感できる。いうなれば国籍・地域などにかかわらず、またどの世代をも受け入れる、そんな間口が広い、特異な空間なのかもしれない。
何も欧州だけではない。中国西安にある秦始皇兵馬俑博物館を訪れたときも様々な人たちが集い、独特の雰囲気であったことを思い出す。
これらに共通するのは、従来の枠組みや日常生活を超えた別の世界を思い起こさせ、心の余裕やゆとりの大切さを感じさせること、また、これらを後世に残した先人への畏敬の念を育むことにつながるような気がする。
■美術館などの文化的施設がもたらすもの~中之島において~
話を中之島へ戻そう。
もともと中之島は芸術の素養を持つエリアであるが、今回の大阪中之島美術館ができることによりさらに充実するだろう。中之島は都心でありながら自然の川が残っている「水都のまち」を実感できる場である。パリで例えるとセーヌ川とその中州であるシテ島、そのほとりに佇むルーブル美術館のような場所だろうか。
定期的に中之島界隈に赴く所用がある。あるときは徒歩、ときには自転車。中之島を通り、堂島川を眺めながら、時々写真に収めている。素人の趣味レベルであるが、様々な顔があっていい。ビジネス街から離れて川辺を歩むと、川の流れが時間の経過を穏やかに感じさせる。
昨年末には、「中之島ウエスト・ラバー・ダック2021」というイベントにて、おなじみの大きなアヒルが川辺に佇んでおり、さらに癒されたものだ。
さらに、川のほとりでは絵筆を持ち、界隈の風景をキャンバスに描いている方々がみられる。描く対象は水辺、緑、そして中之島の新旧建物群なのだろう。春、秋はもちろん、真夏や木枯らしが吹く冬場にも誰かがいる。都会の中で、自然、そして四季を感じることができる場所、それが魅力の一つなのかもしれない。大阪都心でこのような場所は少ないように思う。
都心でありながら多様な素養を持つ「中之島エリア」に集まる文化的施設。そしてそこに集う人たち。キタでもミナミでもない独自性をもち、他の色に染まらない中性的なポジション。商都大阪の都心において、経済性とは一線を画した、いわば「大阪らしくない」中之島が今後も希少な場所であり続けることを望むばかりである。
さらに、この魅力ある都心の文化拠点を、国内外の人たちにどのように発信し続けていくか、今後の動きに注目していきたい。
■略歴■
不動産鑑定士トシこと深澤俊男(ふかざわ・としお)。不動産業界に30年以上。CBRE総研大阪支店長を経て、深澤俊男不動産鑑定士事務所代表、株式会社アークス不動産コンサルティング代表取締役。「物言わぬ不動産と不動産マーケットを語る専門家」として、独自視点の調査コンサル・講演活動などを行う。独立後12年間の講演・講義回数は約300回。趣味は旅行。全国47都道府県に足跡がある、自称「ほっつきWalker」。感想をこちら(info@arc-s.biz)までお寄せください。こちらから「過去のコラム一覧」をダウンロードできます。