■世の中の将来予測のあれこれ
前々回のコラム『大阪梅田ツインタワーズ・サウスが間もなく完成!「大阪オフィスビル2022年問題」は?』で、22年の梅田界隈の近未来を記した。
そして前回のコラム『阪急大阪梅田駅の再開発構想で梅田がさらに変貌!2030年以降の「未来の地図」に期待』で、30年以降の梅田エリアの未来について話題提供した。
それらの反響の大きさが、将来に対する読者の興味の度合いを物語っているように感じる。
では、将来予測にはどんなものがあるのだろうか。
よく用いられるものとして、厚生労働省の将来推計人口(17年推計)があり、65年までの日本全体の人口予測が公表されている。
また、国土交通省が発表している『国土交通白書2020』第2章の将来予測される様々な環境変化 には、45年の都市別人口集中度など様々な予測が記されている。
一方、定性的な観点ではシンクタンクの野村総合研究所が発表している将来予測がある。
例を挙げると、通信分野については、新たな携帯電話規格である第6世代携帯電話(6G)が30年ごろに登場予定とのこと。現在の5Gと比較して、千倍近い高速化などで世の中が大きく進化、発展させていくものと期待されている。
このように将来に対して関心が高いのはいつの時代もそうであろう。不動産に関わる開発、建築、まちづくりなどにおいても将来動向について興味を持つ人は多いように感じる。
以下では、都心部に焦点を絞ってみてみたい。
■将来予測の位置づけ
では、将来予測はどう位置付けられているのか。
都心部においては、不動産価格を求める場面で収益還元法を用いることが多い。この手法は不動産が生み出す将来の賃料とその期間の費用から求められるもので、そこには将来予測が介在する。要するに、将来を読んで価格を算定しているのだ。
なお、不動産鑑定評価基準にはこの手法を用いるにあたって「予測の限界を見極めなければならない」とも書かれている。ちなみに、それがどれくらいの期間であるかは明記されていない。
以前、都心オフィス市場の予測プロジェクトに携わったことがある。そこで作成した定量的な予測は、当時一定の評価を受けた。今からみると素朴なモデルだったけれども、プロジェクトを実施する主体にとっては将来を読む拠り所の一つだったのではないだろうか。
その際、予測には様々な要因が絡み合うことを実感した。また、とにかく手間がかかる。数多くの意義あるデータを収集しなければならないし、そのデータ量の多寡や内容で結果は大きく影響される。場合によってはデータを集めなおすことも珍しくなく、何度も試行錯誤していく。このように予測を作成する上では、数多くのトライ&エラーがあるのだ。
とりあえずデータを集め、何かの箱に入れてガラガラポンで済む話ではない。また、作成に際して少なくない費用がかかることは言うまでもない。
なお、経済学者の伊藤元重氏は著書『経済の読み方 予測の仕方』の中で、「地価の動きは予想不可能」「5年後、10年後の土地の価格なんて、誰にもわからない」と述べている。地価についても、多くの要因が複雑に絡み合っており、予測は困難なのだ。
■都心不動産市場の未来を読む方法とは、、、
では、都心不動産市場の場合、膨大な時間とコストをかけないと将来予測できないものなのか。決してそうではなく、未来を読むための比較的手軽な方法は存在すると考えている。
それは「供給面について今後の予定を継続的に把握すること」である。今後の開発、建築など世の中に出てくる具体的な事例に注目することと言い換えてもいい。
それらには、それぞれの事業主体が計画遂行のために相当の時間とコストをかけた事前準備、マーケティング調査、需要見込みなどの事業成立性や独自の将来予測が内在している。特に大手デベロッパーなどの供給者の際はそれが充実しており、かつ実現性が高い。
繰り返しになるが、未来を予測して定量的な回答を導くことはとても困難だと実感している。だからこそ些少な要因などは排除し、あまりブレない指標を軸とした、できる限るシンプルな方法を用いることが望まれる。それが、今後の開発、建築といった供給事例と認識している。これは筆者が不動産業界に長く関わって得たものの一つであり、希少性の高い立地である都心不動産市場の場合は、この供給こそが市場を先導するということだ。
このように、現時点での把握可能な計画を把握しておくことが未来、特に近未来の姿をつかむためのよりよい方法だと感じている。将来を予測するためには、地道な歩みではあるが、近未来のプロジェクトをウォッチし続けることに尽きるのではないだろうか。
■おまけ:「未来の地図」の拠り所になるかもしれない別の世界
非現実的な世界である映画やマンガには未来に関するものが多くみられる。
それらの一つ、手塚治虫氏の名作「火の鳥」を紹介しよう。中でも象徴的なのが「未来編」である。たかがマンガと思うなかれ。
時は西暦3404年。地球は死にかかっていた。環境破壊、地下生活、電子頭脳(コンピューター)の人類支配、そしてAI(人工知能)が起こす核戦争など、どれも未来を見据えたものばかり。
その中で無人観測機が出てくるシーンがある。プロベラはない円盤状の形で、縦横無尽に動き回り、放射能汚染の中、遠隔操作で被写体を上空から撮影している情景が描かれている。その姿はまるでドローンだ。
ちなみに、このマンガが書かれたのは1960年代というから、手塚氏は半世紀以上前に、未来を見通し、ドローンに似た無人観測機の存在をイメージし、それを文字だけはなく画像として表現していたのだ。そしてこの物語は30億年後の未来まで続く。その慧眼には恐れ入る。我々が行っている予測など足元にも及ばないだろう。
昔読んだ本やマンガには、このような未来の姿が垣間見える。日常とは別の世界から未来を眺めるのも悪くない。
■略歴■
不動産鑑定士トシこと深澤俊男(ふかざわ・としお)。不動産業界に30年以上。CBRE総研大阪支店長を経て、深澤俊男不動産鑑定士事務所代表、株式会社アークス不動産コンサルティング代表取締役。「物言わぬ不動産と不動産マーケットを語る専門家」として、独自視点の調査コンサル・講演活動などを行う。独立後12年間の講演・講義回数は約300回。趣味は旅行。全国47都道府県に足跡がある、自称「ほっつきWalker」。感想をこちら(info@arc-s.biz)までお寄せください。