【コラム・不動産鑑定士トシの都市Walker】阪急大阪梅田駅の再開発構想で梅田がさらに変貌!2030年以降の「未来の地図」に期待〈22/1/21新規〉


■阪急大阪梅田駅界隈の再開発構想

前回のコラム『大阪梅田ツインタワーズ・サウスが間もなく完成!「大阪オフィスビル2022年問題」は?』にて大阪梅田ツインタワーズ・サウスを取り上げた。そのコラム発表と同日の読売新聞朝刊での記事「梅田とJR大阪駅周辺、空中デッキで連結構想も…阪急がキタで半世紀ぶり大規模開発」が阪急梅田駅界隈の再開発構想だった。

奇しくもタイミングが一緒だったこともあり、前回に続いて大阪梅田エリアに着目する。

まずはその再開発対象施設を列記してみよう。

一つ目は「大阪新阪急ホテル」。1964年開業。地上10階建てで、総客室数は961室。駅直結で利便性が高いホテルであったが、コロナ禍の影響などで、21年3月に営業終了が発表された(梅田OSホテルは21年度末までに、大阪新阪急ホテルは24年度末ごろに営業終了/千里阪急ホテルも25年度末ごろに閉館/阪急阪神ホテルズ=建設ニュース)。

二つ目は「阪急三番街」。69年開業。飲食店など約260店舗が入居している。紀伊国屋書店梅田店があり、同店の前は大阪屈指の待ち合わせ場所として有名である。

三つめは「阪急ターミナルビル」。72年開業。地上17階建て。3階部分で阪急電鉄大阪梅田駅の改札口に接続しており、その下層階には、上記「阪急三番街」、同じく上層階はオフィスなどとして利用されている(下図参照)。

いずれも開業から50年程度かそれ以上の建物でその老朽化は否めないが、西日本有数の乗降客数を誇る阪急大阪梅田駅直結という希少性が極めて高い立地にある。

上記読売新聞によると、これら3施設の建替えを構想しているとのこと。完成は30年以降の見込み。西側のJR大阪駅周辺の施設と空中デッキで結ぶ計画もある。阪急・大阪梅田駅とJR・大阪駅などが結びつくことで、商業繁華性が高まり、回遊性の向上が期待されるなど大阪梅田駅界隈が持つポテンシャルの高さが発揮されそうだ。

■時代を先取りする阪急グループ

今から30数年前に東京で社会人生活を送り始めたとき、驚いたことが二つある。

一つ目は、改札口に駅員が立って、切符にはさみを入れていたことだ。自動改集札機が当たり前と思っていたところ、その導入は阪急電車が全国で一番早かったという。時代を先取りした試みだ。ちなみに、大阪梅田駅3階改札口には、柱を挟んで43台の自動改札機が並ぶ。

二つ目は、都内の地下鉄でエアコンがなく扇風機が回っている電車が残っていたことだ。夏場、その電車に当たると、行きの通勤だけで汗だくのサウナ状態。対して、阪急電車はかなり以前から冷房車を導入していたため、そんな思いをした記憶がない。まるで時代錯誤に陥ったようだった。

過去に遡れば、東急グループの創業者である五島慶太氏は都心近郊に緑豊かな田園都市とそれらを結ぶ鉄道路線というまちづくりのモデルを作ったが、それは阪急グループの創業者である小林一三氏に倣ったという。

このように、大阪がその発信源となっているものは少なくない。

■「未来の地図」に期待

これまで超大手から中小まで数多くの不動産開発会社と関わりがあった。彼らに共通しているのは、形は違えども「まちづくり」という領域で未来を語り、未来を創ること。いわば「未来の地図」を作る仕事といってもいい。中でも印象深かったのが、ある大手デベロッパーのスタンス「我々は50年後を考え、100年先を見据えて仕事をしている」だった。

対して、近年、企業経営について短期的視野での傾向が気になる。単年度、場合によっては半年や四半期での成果を求められることが多い。もちろんそれを否定するわけではないが、複雑な思いを持つのは筆者だけではないだろう。そんな中、今回の再開発報道で、長期的視点を拠り所としている在阪デベロッパーの存在を再認識し、心意気を感じさせてもらった。

前回コラムにも書いた10年竣工の梅田阪急ビル(大阪梅田ツインタワーズ・ノース)、同じく22年春竣工予定の大阪梅田ツインタワーズ・サウス、そして30年以降の今回の再開発プロジェクト。一方、2024年以降、うめきた2期などそれ以外にも数々の開発が予定されている。これらが一体となる大阪梅田地区。リーマンショック、コロナ禍など数々の試練を乗り越えて都心の地図が変貌していく。はたして30年以降の未来の地図はどうなっているだろうか。

今回、建替えられる「阪急ターミナルビル」というワードは終着駅を連想させる。線路の行きつく先には車止めが見えるそんな景色。ただ、振り返って見ると終着ではなく、折り返して再出発することがわかる。決して終わりではない、リスタートの場所といってもいいのではないだろうか。

■おまけ

阪急電車について思い出すエピソードがある。

ある日、子供から「阪急電車はなぜあんな色をしているの?」と聞かれた。突然の質問で返答に窮し、後日、阪急グループの人から話を聞いた。

「阪急マルーン」という独特なエンジ色を使っていること。塗装することは維持管理コストがかかる反面、継続的に使用することで伝統やブランドを守る効果もあること。その結果、地域の人たちに親しまれていること。ただし、元々の目的は、車体の腐食を抑えるためというオチがあったのだが。

何十年も見続け馴染みがあるその色について疑問など少しもなかったが、そんなピュアな質問をされた日が今は懐かしい。印象深いのはその色を長く使い続けていること。そして、それが人々に根付いていること。マルーン色が目に入ると、エピソードとともに阪急電車がふと頭に浮かぶ。それらもまちの風景の一つなのだ。

次の、さらに次の世代にもそんな話を伝えていきたいものだ。

■略歴■

不動産鑑定士トシこと深澤俊男(ふかざわ・としお)。不動産業界に30年以上。CBRE総研大阪支店長を経て、深澤俊男不動産鑑定士事務所代表、株式会社アークス不動産コンサルティング代表取締役。「物言わぬ不動産と不動産マーケットを語る専門家」として、独自視点の調査コンサル・講演活動などを行う。独立後12年間の講演・講義回数は約300回。趣味は旅行。全国47都道府県に足跡がある、自称「ほっつきWalker」。