【コラム・不動産鑑定士トシの都市Walker】大阪梅田ツインタワーズ・サウスが間もなく完成!「大阪オフィスビル2022年問題」は?〈22/1/7新規〉


■ついに2022年がやってきた

以前から懸念されているその年がいよいよ到来した。大阪オフィスビルマーケットに事務所床が大量に供給されるのがこの年だといわれて久しい。マスコミ各社は「大阪オフィスビル2022年問題」という表現でそれを伝えている。今年、このワードが何度出てくるだろうか。そして、今年のオフィスビルマーケットはどうなるのだろうか。

以前のコラム(「大阪オフィスビル2022年問題」に先立つ注目エリアはどこか?)にてその前哨戦である21年の状況を紹介したことがある。当時はまだ先という感覚であったが、コロナ禍だったからだろうか、早いもので1年が経ってしまった。

冒頭の写真は、22年に竣工するもののうち最も注目度の高いビルである「大阪ツインタワーズ・サウス」である。竣工まで残りわずかなこのビル。これを取り巻く梅田地区のオフィスビルマーケットの注目度が上がっている。そのツインタワーの今昔物語を、先に建った北側の「ノース」、今回竣工予定の南側「サウス」として紹介していこう。

■ノース

まずは、ツインの北側に位置する「大阪梅田ツインタワーズ・ノース」。

その誕生は、2010年春。「梅田阪急ビル」と名付けられた(※)。

ここには阪急百貨店梅田本店があり、その上層部分にオフィス棟が計画された。言葉でいうとたやすいが、昼・夜を通した工事は当時、不夜城ともいわれ、これまであまり例のない大がかりで困難なものだったと聞く。

百貨店の開業に続き、このオフィス部分は10年に完成。ただし、時代はリーマンショックから間もなくという世界的な不況期であり、大阪オフィス市況も低迷していた。大阪全体のオフィスビル空室率は、過去20年間で最も高い12%程度まで上昇していた。

そんな時期だったこともあり、このビルの竣工時の入居率は約3割。誤植かと思われるかもしれないが、入居率が30%である。裏返すと、このビルの空室率は70%。一般的に、新築ビルを計画する際、竣工時の入居率9割以上を目標とするといわれているが、その条件を大きく覆すこの数字に、いかにビル市況がよくなかった時期だったかわかる。

その後、市況が回復し、元々の立地ポテンシャルの高さもあって、このビルは大阪オフィスビルマーケットのシンボリックな存在として、今日まで確固たる地位を築いている。

※以下では、その時期の如何に関わらず、このビルの呼称を「大阪梅田ツインタワーズ・ノース」または「ノース」とする。

■サウス

次に、ツインの南側に位置する「大阪梅田ツインタワーズ・サウス」(ビルの概要はこちら)。

この場所には大阪神ビル(阪神百貨店)と新阪急ビルが建っていた。その建替計画が進められ、着工は15年。大阪オフィス市況が底を打って反転し、前記「大阪梅田ツインタワーズ・ノース」の稼働率が高まりつつあった時期である。

工期は2つに分離され、第Ⅰ期は、新阪急ビルに加え大阪神ビルのうちの東側部分を建替し、18年春に阪神百貨店が一部開業した。第Ⅱ期は、その後、大阪神ビルのうちの西側を建替し、21年10月に同百貨店が先行開業した。

そして、第Ⅱ期のオフィスタワーを含むビル全体の竣工を間近に控えた現在、オフィスフロアのテナント内定率は8割程度と聞く。上記「ノース」の経緯と比べると、かなり高い水準である。コロナ禍にも関わらず善戦しているなど、業界内では好意的な意見が多い。今春にはどのような状態で全面開業を迎えるのか、注目されている。

■梅田地区におけるオフィス立地の位置づけとは?

従来からよく聞かれる質問の中に、不動産マーケットについて「大阪の中心はどこ?」「大阪の頂上は?」「大阪で最も高いのは?」というものがある。これらに即答するのはかなり難しい。切り口が異なると答えは違ってくると感じている。

その切り口の一つである地価の視点でいうと、ツールとして相続税路線価が用いられることが多い。これによると、21年1月現在、阪急百貨店の南側が最高路線価として位置付けられている。すなわち、この視点ではそれに面する「大阪梅田ツインタワーズ・ノース」がその場所なのだろう。こちらは1年に1回、公表されているので分かり易い(路線価図)。

では、切り口を変えたオフィスビル賃料の場合、通常、最も高く賃料を獲得できる現存ビルがマーケットの頂上に位置する。ただし、それは立地、規模、築年、品格というビル自体が持つ諸元のほか、マーケットの状況や競合ビルの有無などの市況、事業者の諸事情を含めた様々な要素が複雑に絡み、さらにこれらは時期により常に変動するものであり、その見極めは簡単ではない。

梅田地区は過去から著名な商業地として栄えてきたが、オフィスビルエリアとしての成熟度は御堂筋界隈や中之島地区に比べて、見劣りしてきた時期が久しかった。その理由は、ポテンシャルが極めて高い立地にもかかわらず、シンボリックな大型オフィスビルが少なかったことが一因であろう。

ただ、10年に、上記「ノース」がその先導者として竣工し、その後、13年竣工の「グランフロント大阪」などが続いた。その昔、各企業や投資家たちから、大阪には投資対象として魅力的な大型オフィスビルがあまりないと揶揄された時期が続いたこともあったが、この数年間で時代は変わりつつある。

今回の「大阪梅田ツインタワーズ・サウス」の竣工により、ポテンシャルの極めて高い立地に、大規模で、高い設備水準、品格などを備える稀少性が高い新築大型ビルが完成することで、その核となる地点が定まり、頂上となるビルをイメージできるように感じる。すなわち、梅田地区はもちろん、大阪オフィスビルマーケットで最高峰となりうるビルが新たに出現するといってもいいだろう。さらに、「ノース」をはじめとした近隣のビルとともに、梅田地区全体のオフィス立地としての格や位置づけがさらに向上する効果を育むのではないだろうか。

■実は22年から先が危惧されている

今回は22年の梅田地区に注目したものである。

ここで、大阪オフィスマーケット全体をあらためて眺めてみると、まず、22年第1四半期(1~3月)は、新大阪地区にて延床面積約3~7千坪程度の中規模ビルが4棟竣工予定である。各ビルともに健闘しているが、短期間に複数のビルが市場に供給されることにより同地区における供給過多は否めない。

一方、今回紹介した「大阪梅田ツインタワーズ・サウス」は今年竣工予定の中では最も大きなビルで、新大阪地区の供給量を大きく超える。さらに、8月、京阪淀屋橋駅直結に「サウス」に次いで大きい「日本生命淀屋橋ビル」が竣工予定である。ちなみに、このビルもテナント内定率は高く、22年に竣工予定の大型ビルについての状況はよさそうだ。

マスコミが近時報道している「大阪オフィスビル2022年問題」。上記のように内定率は一定の水準を確保しているため、その懸念の度合いは以前ほどではない。

ただし、今後数年間にわたって大阪中心部には様々な開発が目白押しで、オフィスビル供給予定量は今回を超える年もみられる。実のところ懸念されているのは22年から先なのだ。

この話題については、またあらためて別稿にてみていきたい。

■おまけ:大阪オフィスマーケットでのツインビルあれこれ

参考までに、大阪にて、二つの似た形状をもつビルが並んで立つものはあるのだろうか。いくつか紹介してみたい。

古くは、1986年竣工の「ツイン21」。大阪城に近い、大阪ビジネスパーク(OBP)内にある。その中央付近に、白色でほぼ同じ形状のビルが2棟、並び立っている。

また、93年に竣工した「梅田スカイビル」。こちらは二つの高層ビルが最上部にて連結している形状で、屋上からは大阪市内外が眺望できる。サグラダ・ファミリアなどと共に「TOP 20 BUILDINGS AROUND THE WORLD」の一つとして選出された、世界的にも有名な建物である。

近時だと、肥後橋至近に所在し、四つ橋筋を跨ぐ形状の「中之島フェスティバルタワー」。その東地区が2012年に完成し、その西地区(中之島フェスティバルタワー・ウエスト)は5年後の17年に竣工した。写真のように、東地区と西地区で形状がやや異なる。

なお、関西国際空港の連絡橋のたもとに所在する「りんくうゲートタワービル」も計画当初はツインにて構想されていたが、その後、片側のみのビルとして竣工した。ちなみに、現在もゲートの形状にはなっていない。

また、将来的には、淀屋橋駅直上に、御堂筋を跨いで二つのビル「淀屋橋駅東地区都市再生事業」と「淀屋橋駅西地区第1種市街地再開発事業」が計画されており、25年ごろに竣工予定である。これも広い意味でツインビルに分類されるかもしれない。

都心にて「ツインビル」が目を引くサインの一つとなっている。まるで双子が仲良く並んで立っているようで、どこか微笑ましいと思うのは筆者だけだろうか。そんな視点でオフィスビルマーケットをみるのもおもしろい。

■略歴■

不動産鑑定士トシこと深澤俊男(ふかざわ・としお)。不動産業界に30年以上。CBRE総研大阪支店長を経て、深澤俊男不動産鑑定士事務所代表、株式会社アークス不動産コンサルティング代表取締役。「物言わぬ不動産と不動産マーケットを語る専門家」として、独自視点の調査コンサル・講演活動などを行う。独立後12年間の講演・講義回数は約300回。趣味は旅行。全国47都道府県に足跡がある、自称「ほっつきWalker」。