【コラム・不動産鑑定士トシの都市Walker】外車ディーラーが都心に出店!~御堂筋ビジネス街に変化を運ぶ南風?~〈21/12/3新規〉


■御堂筋界隈について

最近、御堂筋の状況について質問されることが多くなったように感じる。2022年のオフィスビル大量供給が近づく中、大阪都心の不動産市況をみる上で、御堂筋界隈の動きは依然として注目されているのではないだろうか。

11月30日に株式会社アークス不動産コンサルティングが「都心オフィスビル利用状況観測調査(2021年10月期)」を公表した。事務所についてはこの半年間、わずかな動きがある程度で、近時懸念されている空室増加などはみられていない。

■御堂筋沿い[淀屋橋~本町]1階に新たな動き

一方、店舗については、先般のコラム「コロナ禍を経た御堂筋沿い1階の動き~飲食店・カフェはどうなった?~で、御堂筋沿い[淀屋橋~本町]での飲食店・カフェの動きを紹介した。その際、地下鉄御堂筋線本町駅直上のハードロックカフェ大阪が退去し、その後の動きにつき含みを持たせたコメントをした。

この度、その入居テナントが決まった。高級外車の販売代理店である「コーンズ」である。

同社のホームページによると、この度、店舗再編を実施するとのこと。参考までに再編後の大阪都心部での店舗マップは以下のとおり(同社ホームページより)。

この結果、元々あった心斎橋ショールームに続いて、御堂筋沿いに2店舗目を展開することとなる。この12月4日にオープンする予定。御堂筋沿い[淀屋橋~本町]の1階に新しい風が吹くのだ。

■都心でのカーディーラーの展開傾向

ここで、大阪都心部のカーディーラー出店状況について振り返ってみよう。

一般に、カーディーラー店とは、直営または代理店の違いにかかわらず車の販売を主とする店舗の総称として用いられることが多く、都心部よりもやや郊外の幹線道路沿いに展開するイメージがある。店舗によっては整備工場などを併設することから、都市計画法上の用途地域の制約を受けることもあり、その出店可能エリアは限られる。

一方、都心部での店舗展開に際しては、自前で建物を建築するよりも賃貸ビルの路面フロアに入居することが多い。出店の際の一般的な条件としては、前面道路の幅員が広く通行量が多いことや、車両の入出庫の容易さのほか、間口の広さや店舗の視認性を確保できる点が必要であるなどなかなかハードルが高い。加えて、一定規模が必要であるため、出店余地はさらに限られる。

そもそも都心に展開するカーディーラーは販売目的と車のショールーム機能を併せもった店舗形態を備えることが多い。

しかし、ショールームそれ自体は収益を生み出さない。したがって、通常、賃料負担能力は他の店舗業態と比べて低いことが多く、また、人気のエリアはより大きな賃料負担能力を持つ他業種に駆逐される可能性も低くない。そのため、景気が順調な際はより広域的な視野で店舗展開を検討する必要があった。

大阪都心3区の場合、その候補地として、北区や中央区内の幹線道路沿いが挙げられるが、一般的に地価が高い分、当然地代や家賃も高額となる。したがって、都心に近接しつつも、両区に比べ廉価である西区の長堀通沿いや本町通などに位置する例がこれまで多くみられたのである。特に長堀通沿いは視認性の良好さなどからその集積度は高い。

そんな業態に変化が訪れた時期があった。リーマンショックである。

■御堂筋沿い[本町~心斎橋]1階でのカーディーラーの動き

リーマンショック後、不動産マーケットは低迷し、都心部の地価や賃料は大きく下がった。これまで空きがなかった御堂筋沿い路面にも退去するテナントが多くみられた。既存ビルの路面店は空き、リーマンショック前に着工した新築ビルが竣工近くなってもテナントが決まらない状況が続いた。

そんな2010年代初頭に、次々と外車ディーラーが入居した。

【ヨドコウ第2ビル】

【2010年に竣工した御堂筋本町アーバンビル】

【2011年竣工の本町南ガーデンシティー】

いずれも超高級車であるフェラーリ、マクラーレン、ランボルギーニなどが整然と並ぶ。わずか300メートル程度のエリアに並ぶその景観に「スーパーカー」通りと称する人もいた。

さらに、その後、日本生命御堂筋ビルにテスラが出店した。

こちらはスーパーカーの部類ではないものの、外車のショールーム機能を有する店舗として参考までに列記した。今後の時代を先取りした業態であろう。

このように、リーマンショック後の数年間における不動産市況低迷期に、新しい業態が御堂筋沿い[本町~心斎橋]に出店していたのだ。

■御堂筋におけるその先の姿は、南方面からの風なのか?

この11月23日より、地下鉄なんば駅界隈にて「歩行者天国」や「乗用車通行禁止」などの社会実験が催された(大阪市「11月23日からなんば駅周辺における道路空間再編のための社会実験を実施します」)。地域の特徴は異なるものの同一路線である御堂筋沿いにて、外車ディーラー展開と歩行者主導計画構想。駅2つ、その距離わずか2㌔㍍程度しか離れていない両地域において、性質の異なる動きがほぼ同時期に起きたことが個人的には興味深い。

以前には、高級ブランドショップが心斎橋駅から御堂筋沿い[本町~心斎橋]を北上していく様が話題となったことがあった。さらに先般、御堂筋沿い[本町~心斎橋]の寺院の複合用途への建て替えがあり、近い将来において別の寺院の建替計画もあるという(御堂筋沿い[心斎橋~難波])。これら一連の動きは、この10年余り及び今後の御堂筋沿いにおける時代の変化を感じさせる。

一方、これまで少々画一的で変化に乏しいといわれてきた御堂筋沿い[淀屋橋~本町]エリア。今般の外車ディーラーによる店舗出店は同[淀屋橋~本町]1階の入居スタイルに一石を投じるのではないだろうか。

昨今の流れに加え、これらの動きがきっかけとなり、継続して適度な変化が促進され、多様性が進むかもしれない。御堂筋沿い全般の未来の地図がどうなるのか楽しみなのは筆者だけではないだろう。今後を大いに期待している。

■略歴■

不動産鑑定士トシこと深澤俊男(ふかざわ・としお)。不動産業界に30年以上。CBRE総研大阪支店長を経て、深澤俊男不動産鑑定士事務所代表、株式会社アークス不動産コンサルティング代表取締役。「物言わぬ不動産と不動産マーケットを語る専門家」として、独自視点の調査コンサル・講演活動などを行う。独立後12年間の講演・講義回数は約300回。趣味は旅行。全国47都道府県に足跡がある、自称「ほっつきWalker」。