【コラム・不動産鑑定士トシの都市Walker】地上300㍍でこたつ&おでん!~日本一高いビル「あべのハルカス」で舌鼓~〈21/11/19新規〉


■こたつを囲みながらおでんを食す

この10月は気温もやや高めで良い天気が続いていたものの、11月に入って風が冷たくなり、朝の気温は10度を下回る日もある。いよいよ冬が近づいてきたようで、温かいもの、特にお鍋が恋しくなる季節が到来である。

そんな中、あるお誘いが届いた。「かこむdeこたつ」という催しについての報道関係者向けの試食会。「こたつ」というと懐かしい気分になるが、注目はその場所である。日本一高いビル「あべのハルカス」の58階「天空庭園」なのだ。地上300㍍に手が届きそうな高さでのイベント。早速、現地へ向かった。

■「あべのハルカス」について

現地ルポの前に、あべのハルカスをおさらいしてみよう。大阪在住の方ならほぼ全ての人が知っているだろう「あべのハルカス」。

2014年3月に竣工したこのビルは、それまでの横浜ランドマークタワーを抜いて、日本一の高さとなった。それから7年余り、大阪阿部野橋駅の上空にそびえ立っている。

その最上階には「ハルカス300」があり、そこには展望台をはじめ、飲食スペースなどがある。そこからは360度のパノラマが広がっている。

実は、今を遡ること7年前のビル竣工直前に、関係者のみの会合で訪れたことがある。冬の晴れた日だったため、全方位の絶景を楽しめた。特に西側については、南港のWTCはもちろん、その先の明石海峡大橋までかすかに見えた。高層ビルからの眺めは空気の澄んだ季節が実によいと再認識したものだった。

■「あべのハルカス」の関係者に話を聞いてみた

今回の試食会では近鉄不動産株式会社経営企画室の西口拓実さんに話を伺った。その一部を紹介する。

18年に始まった、このイベント。夏の期間は以前からバーベキューメニューを提供していたが、冬場には特になかった。何か催しをと検討していたところ、社内会議で、地上300㍍という非日常空間で、こたつに入りながら鍋を囲むというアイデアがだされた。鍋の種類は、展望台フロアで元からあったメニューである「おでん」がいいのでは?となりスタート。ちなみに、「オープンエアの空間で、絶景ウチ飲み体験」というこのコピーも社内で発案したとのこと。

各種PRもあり、集客は順調だったところ、20年はコロナ禍により客足が低迷したという。鍋を囲むというシチュエーションがイメージ的に逆効果になったのかもしれない。

そこで、現在は手指の消毒必須のほか、座席は非対面での利用を推奨している。その点、こたつは正方形なので、隣に座れば対面せずに食事を楽しむことができる。また、畳はもちろん、こたつ布団や座椅子にも抗ウイルス・抗菌加工のコーティングを専門業者に依頼し対策を万全にしている。また、通常、箸をつつきながら食べる鍋も、分割するタイプである仕切り鍋の対応を可能とするなど、さまざまな工夫がみられる。

非日常での空間でありながらも、貸出可能なドテラを着ながら少人数で気軽に食事するというコンセプトであるため、比較的短い時間で楽しむことができる。鍋を囲むというと何となく長時間とどまるイメージがあるが、客の回転数も低くないという。

そのこたつは、南側に7卓と、西側に3卓(うち1つはペアソファシート)で、それぞれの方向で雰囲気も異なる。南側はすぐ窓であるため、大阪南部の夜景が間近に楽しめる。一方西側は装飾スペースを介するため、室内イルミネーションと夜景のコラボレーションを感じながら食事ができるようになっている。

ちなみに、ペアソファーシートは2名が横並びでこたつに入るというスタイルでカップルなどに人気とのこと。

なお、こたつについては、従来のものは熱いイメージがあるが、実際に入ってみたところ、ほどよい温かさで心地よかった。オープンエアであるものの、鍋を囲むことから熱くなりすぎない温度設定がありがたい。

■「旨辛おでん鍋」を食べてみた

では、おでん鍋を紹介しよう。以前からある「あごだしおでん」と今年から新登場の「旨辛おでん」の2種類が準備されており、後者を選んだ。

前菜3種盛り合わせにおでんは8種。その具材は大根、玉子、こんにゃく、ちくわ、牛すじ、三角揚げ、餅巾着、串付きチーズウインナー。

おでんメニューについていくつか紹介してみたい。まずは定番の大根。型崩れすることなく、しっかりと味が染みている。次いで、牛すじ。柔らかめの適度な歯ごたえで、味はやや控えめで重くない。

さらに、串付きチーズウインナー。普段、おでんでは食べないウインナーなのであまり期待してなかったが、見事に裏切られた。中に入っているとろけたチーズが多すぎず少なすぎず絶妙で、子供から中高年まで受け入れられる気がした。その他の具材についても、辛すぎない旨辛の出汁が絡んでおり、文字通りやみつきになりそうだった。

その後、〆のうどんを、と思っていると、是非リゾットを試してほしいとお勧めされた。味はお勧めのとおり。旨辛の風味を残したまま、ふんだんに入ったとろとろチーズとの相性が絶妙で、これもくせになりそうな出来栄えだった。

なお、筆者が出汁の分量を減らさなかったことで、写りがもう一つだったため、写真は掲載していないことをお許し願いたい。

今回は新登場の「旨辛おでん」だったが、次回は定番の「あごだしおでん」も賞味したい。

■おまけ:近い将来、日本一でなくなるときが...

現時点では日本一の高さを誇るあべのハルカス。ただ自らも経験したように、近い将来、その座を明け渡すことが予定されている。2023年竣工予定の「虎ノ門・麻布台地区再開発計画」で2位に、27年に東京駅至近に予定されている「トーチタワー」の竣工によって、さらに順位を落とすことになる。

これらの結果、大阪のビルがまた東京に抜かれることに一抹の寂しさがあるとの声を聞くこともある。ただ、ビル訪問者の一人として、そんなことは気にならないほどの夜景のすばらしさと非日常空間での食事のひとときを楽しめた。

【天空庭園からみる地上300㍍】

地上300㍍のビルが、市街地にポツンと一棟そびえ立つことで圧倒的な存在感をもつ「あべのハルカス」。高層ビルが集積していない開放感のある希少な立地だからこそ、より広く、より遠くまで見渡せる眺望。そんな場所に集い、そこで憩う。ビルの高さそのものよりも、それらに価値を見出す人も少なくないのではないだろうか。

■略歴■

不動産鑑定士トシこと深澤俊男(ふかざわ・としお)。不動産業界に30年以上。CBRE総研大阪支店長を経て、深澤俊男不動産鑑定士事務所代表、株式会社アークス不動産コンサルティング代表取締役。「物言わぬ不動産と不動産マーケットを語る専門家」として、独自視点の調査コンサル・講演活動などを行う。独立後12年間の講演・講義回数は約300回。趣味は旅行。全国47都道府県に足跡がある、自称「ほっつきWalker」。