【コラム・不動産鑑定士トシの都市Walker】コロナ禍を経た御堂筋沿い1階の動き~飲食店・カフェはどうなった?~〈21/11/5新規〉


■飲食店を取り巻く世の中の状況

先般の日本経済新聞によると、「コロナ禍、4・5万の飲食閉店 全国の1割」にのぼるという。記事によると、NTT各社が持つタウンページのデータベース上、2020年1月には約45万8000店が登録されていたが、21年8月末で41万3000店に減少したとのこと。

大阪のメインストリートである御堂筋沿いにおいても、この5月、地下鉄淀屋橋駅直結のビル1階のカフェにおいて閉店のお知らせがみられた。

参考までに、以前のコラム「御堂筋沿い路面銀行店舗調査【淀屋橋~本町】編」~直近10年の変化~」で触れた「御堂筋沿い路面銀行店舗調査【淀屋橋~本町】編」を再度紹介する。

結果を大まかにいうと、この10年間で、1階に入居していた銀行などの金融機関が、他のビルの空中階に移転する。そしてその跡にショールームなどの別の業態が新たなテナントとして入居する事例がみられるというものである。

以前より淀屋橋から本町に至る御堂筋沿い1階の状況やあり方は変化しつつあるのだ。

■御堂筋沿い1階に入居する飲食店・カフェも変わりつつある

では、今回のコロナ禍が、一般に不況期にも安定的といわれる飲食店やカフェについてどの程度影響を与えたのだろうか。11月4日に発表されたアークス不動産コンサルティングの「御堂筋沿い路面飲食店・カフェ調査【淀屋橋~本町】編」を踏まえ、具体的な情報を付加してみたい。

同調査によると、コロナ禍直前の19年10月で、路面飲食店・カフェは12件。この2年間で増えたのは、20年に竣工した「オービック御堂筋ビル」に入居した「ドトールコーヒー」1件のみだった。対して、同期間で退去したのは以下の4件。

・エクセルシオール(伏見町4丁目、ランドアクシスタワー1階)

・お抹茶サロン(道修町3丁目、大阪ガス御堂筋東ビル1階)

・MEAT DINNING River:Ve(リバーべ)(淡路町3丁目、御堂筋MTRビル1階)

・ハードロックカフェ 大阪(南本町3丁目、イトゥビル1階)

その結果、21年10月時点で営業しているのは計9件となった。

退去したこれら4件のうち「お抹茶サロン」については、21年2月に、元々入居していたビルの建て替えによる移転で、ドコモショップ淀屋橋店が入居している。しかし、21年10月31日現在、その他3件について新たなテナントは入居していない。

なお、現時点において、そのうち1件はある程度固まりつつあるテナント候補がいるという。確定情報が入れば、別の機会に紹介する予定である。

■変わらないカフェ、スターバックスから感じること

一方、変わらないものについてはどうだろうか。

今から20年くらい前に、御堂筋沿い本町駅至近のスターバックス(以下、スタバ)の近くで会社勤めしていた。その当時、早朝から深夜まで、この店の客足が途絶えるのをあまり見たことがなかった。

緊急事態宣言明けに、そのスタバを訪れた。

休日の日中だったので、御堂筋の人通りは平日のそれと比べるとかなり少ないが、店内はほぼ満席状態。地域柄、客層は10代や70代以上はあまりみられず、20代から50代が中心で、男女はほぼ同数かやや男性が多いだろうか。どの人も休日のひとときを楽しんでいるようだった。

また、外国人も散見され、その一人はコーヒーを飲んだ後、店の前に停めてあった高級外車に乗り込み、走り去っていった。

このように幅広い客層が利用しており、一般のカフェとは異なる雰囲気を感じた。

店員の話では、宣言明けの10月以降はこのようなほぼ満席状態が続いているらしい。ただし、20年春ごろの最初の緊急事態宣言時を除くと、コロナ禍でも客数が大幅に減少したようには感じていないとのこと。

なぜだろうか。そこにはスタバが常々大切にしているサービスの本質が垣間見える。

有名な話だが、同社のミッションには「人々の心を豊かで活力あるものにするために」とある。また「サードプレイス」として顧客に心地よい空間を提供してきた実績がある。

ビジネス街でのスタバの隆盛は、インターネットの普及により、必ずしもオフィスで仕事をしなくてよい環境が整備されたことも影響していると考えられる。

オフィスワーカーなら一度はあるのではないだろうか。それはカフェで仕事をすると意外に捗るという経験だ。

いつものオフィスからふらっと出て、カフェに足を運ぶ。何もコーヒーが飲みたいのではない。落ち着ける場所を探しているだけで、そこがたまたまカフェであっただけなのだ。そこでは店員以外にも他人が存在する。また、必ずしも静かとは言い難い。時には少し騒々しいこともある。でもなぜか集中できるのだ。

アイディア創造型のワーカーにとって全く無音で静寂な空間は集中しづらいと聞いたことがある。むしろ多少の雑音のある方が仕事の進捗度が高まり、アイディアも浮かぶともいう。

ただし、それは心が落ち着く空間であることが前提条件であろう。手軽さや安価を求めるタイプのカフェでそれはやや達成しづらいと思われるが、スタバでは商品をはじめ、空間作りや接客など期待を超えたサービスを提供し、それらが顧客に受け入れられている。だからこそオフィスでもない、自宅でもない、第三の場所として広く認知されているのだろう。

今回の訪問でもテラス席でコーヒーを飲みながらアイディアを構想するにはもってこいだと実感している。さらに、店員から、クリスマス期間限定メニューの試飲サービスを受けたが、押し付けがましくなく、そのさりげなさが想定以上の心地よさを覚えた。

これらを踏まえると、御堂筋沿いの飲食店・カフェといった特有の場所では「食べる」「飲む」「休憩する」という直接的な目的だけでなく、それを超えたもの、例えば、居心地のよさや快適さなど何かしら人の心をくすぐるものがあり、人の息吹を感じる空間であることが求められるのではないだろうか。同時に、単なる目新しさとは異なり、以前と変わらず持続している安定感に価値を見出す人は少ないないだろう。

都心ビジネス街での注目度の高い路面飲食店やカフェは、変わっていくものと変わらないものが併存しながら、次の時代へと移行していくのかもしれない。

■おまけ:(御堂筋沿いの飲食店でランチを食べてみた)

御堂筋沿いには、カフェは目立つものの、路面飲食店は意外と少ない。そのうちの1つである「FRENCH BAGUETTE CAFE」に訪れた。ランチからディナー、テイクアウトまで、オールデイユースに使えるカフェ&バルがうたい文句の店だ。

気になる看板が店の前にあった。写真の「格別の淡路牛ハンバーガー」である。ハンバーガーにはあまり縁がなく、近頃全く食べていないが、淡路牛というワードに惹かれて店内へ。

店員に聞くと、この「格別の淡路牛ハンバーガー」はこの夏から始めており、一番人気は「淡路牛パティともちもち湯だねバンズのチーズバーガー」とのこと。

商品を待っている間に店内を見渡すと、客層は20代から30代の女性がほとんど。様々なランチメニューの中で、この淡路牛バーガーセットを注文している若い女性もみられた。あるOLさんの周囲を気にすることなくかぶりついている姿に驚いたが、女性たちのランチタイムに、一人中年男性が紛れている構図では気にならないのであろう。

運ばれてきたバーガーは、看板の写真よりやや小さい印象を受けた。やはりそんなものかを思いきや、実際食べてみると、そのボリューム感はとんでもない。

まず、バンズ。表面の香ばしいかおりが鼻を刺激し、表面はさくっと、中はもちもち。

次に、とろけるチーズ、そして瑞々しいレタスとスライス玉ねぎが口の中に広がる。さらに次の一口で淡路牛とやや甘味を感じるトマトに到達。ただし肉は全くしつこくなく、シンプルだけど味はしっかり。野菜の量が多いためヘルシー感が高いが、淡路牛もあわせて食べたという満足感も得られる。一般のハンバーガーとはかなり異なり、素材がよいと違うものだなと感心した。単品でも結構満腹感に至ったが、そのOLさんはすでにセットメニューを平らげつつあった。

御堂筋とその歩道を借景として、ブランド牛のハンバーガーを食べる。一見、ミスマッチのように感じるが、意外といいかもしれない。

■略歴■

不動産鑑定士トシこと深澤俊男(ふかざわ・としお)。不動産業界に30年以上。CBRE総研大阪支店長を経て、深澤俊男不動産鑑定士事務所代表、株式会社アークス不動産コンサルティング代表取締役。「物言わぬ不動産と不動産マーケットを語る専門家」として、独自視点の調査コンサル・講演活動などを行う。独立後12年間の講演・講義回数は約300回。趣味は旅行。全国47都道府県に足跡がある、自称「ほっつきWalker」。