■自然災害がますます増大している
9月1日は防災の日だった。例年この日の前後は、防災に関する意識がいつも以上に高まる。昨年そして今年はコロナ禍という別の災いのため、その報道がやや少ないようにも感じられたが、どちらの対策も最重要課題であることに間違いはない。
有史以来、自然災害は収まることなく発生している。特に日本は水害、地震など枚挙に暇がない。「過去最悪」とか「これまでにない」というフレーズは常に使われている印象だ。読売新聞(7月13日)には「気象庁によると、1976~85年に比べ、2011~20年は「猛烈な雨」(㍉1時間あたり80㍉以上)の平均年間発生回数が1・9倍に増加」とある。昨今は豪雨の頻度が増しているのだ。
■対策その1:ハザードマップがバージョンアップ
宅地建物取引業法には土地や建物の売買・賃貸借の取引にて遵守すべき内容が記載されている。同法内で契約の前に実施することが義務づけられている重要事項説明書。それに関わる法律は数多くあるが、近年は、災害対策に関連するものが目立つ。
そんな中、20年に、その重要事項説明書の記載項目にハザードマップの内容を記載し、説明することが義務付けられた。国土交通省が発表しているハザードマップポータルサイトでは全国の自治体へ容易にアクセスできる。
また、先般、大阪市の水害ハザードマップの改訂版が公表された。これまでの「100年に一度」の想定雨量を見直し、「1000年に一度」のレベルを加味したとのこと。その浸水想定図では、河川氾濫、高潮、内水氾濫、津波浸水の各ケースが図示されている。中でも淀川の氾濫では大阪駅付近を含む北区の大半に被害が及ぶことが示されている。衝撃的な内容であるが、今のうちに確認しておきたい。
■対策その2:新サイトを用いた事前の備え
都市生活の場面で、自然災害に対するイメージを考えてみたとき、やれることの一つが、平時よりシミュレーションを行い、備えることだ。
まずは国や地方自治体が発表している最新の自然災害情報を、普段から把握しておくことが重要だ。その上でどう対応すべきか具体的なプランを立てておくべきだろう。
国土交通省には「PLAETU(プラトー)」という3D都市モデルを使ったサイトがある。その防災ページでは、災害リスクを可視化したものとなっており、例えば、バーチャル空間にて、時間的経過により被害がどう広がるかそのイメージを体感することができる。
また、前述の大阪市水害ハザードマップでは「マイタイムライン」の欄が設けられ、あらかじめ住民各自が取るべき避難行動を時系列に記入できるようになっている。どちらも対策を立てる際の参考となるだろう。
■心構えその1:「やり過ごす」こと
相手は自然、ちっぽけな人間ごときが相まみえられるとは思えないほどの大自然である。まずはそういう意識が大切ではないだろうか。万物の霊長という驕りを一旦、脇に置いて、自然界と実直に向き合い、冷静に考えれば明らかだろう。
かつて進化論を説いたダーウィンはこう言った。
「強いものが生き残るのではない、環境に適応するものが生き残るのだ」
私はこの名言について、自然と対峙するのではなく、時には「逃げる」、「やり過ごす」のも一手、不恰好でもいいから何よりも生き残ることこそが最優先と理解している。
「まず命を守る行動をとってください!」聞き飽きるほど聞いたフレーズであるが、まさしくその通り。だからこそ抗うのではなく、嵐が過ぎ去るまで「やり過ごす」のだ。確かに大半の生物はそうしているし、そうして生き延びてきた先輩たちに学ぶのだ。ただし、彼らと異なり、我々人類は、前述のとおり事前の対策や備えを怠らないことは言うまでもない。
■心構えその2:「マルチライフ」~コロナ禍と自然災害は相通ずる?~
このような避けられない危機をやり過ごすための一手として、マルチライフを送ってみるのはどうだろうか。
たとえば、災害が起きる前にあらかじめ安全なエリアへの移動準備やその場所を確保しておくことや、現実的に災害危険度が高まった際に、複数の生活拠点にて臨機応変に過ごすことも考えられる。「自然災害版疎開」や「シェルター・ロケーション」といってもよいかもしれない。
もちろん、従来の生活水準を維持させることやそのためのコスト負担対策、それらを実現可能とする支援やその財源の確保、さらに、そもそも動けない事情を持つ方々への対応など越えなければならないハードルがあることは承知している。
ただ、隔離対応、リモートワーク、移住、拠点再構築など今回のコロナ禍で経験した知見を総動員しない手はない。コロナ禍と自然災害はその性格は異なるものの、対策という点では相通ずるところがあるのではないだろうか。
コロナ禍はいつか収まるときがくるだろうが、自然災害は半永久的に続くことが予想される。コロナ禍で得た教訓を用いつつ、今後も自然と共に生きていくことが望まれる。
【著者略歴】
不動産鑑定士トシこと深澤俊男(ふかざわ・としお)。不動産業界に30年以上。CBRE総研大阪支店長を経て、深澤俊男不動産鑑定士事務所を開業。株式会社アークス不動産コンサルティングを設立。大阪市立大学大学院創造都市研究科修士課程修了。