■都心居住形態としてのタワーマンションの存在感
いつからだろうか。超高層マンションのことを「タワーマンション」というようになったのは。その後、略して「タワマン」という新しいワードが新聞、
そもそもタワーマンションは法律上の用語ではなく、一般に使われている言葉に過ぎないのだが、今やすっかり市民権を得ている。タワマンについての明確な定義はないが、建築基準法では高さ60㍍以上の建造物を「超高層建築物」と規定しているため、この条件に当てはまるマンションをタワマンと呼ぶことが一般的だという。ちなみに、高さ60㍍は概ね20階に相当する。
不動産経済研究所「全国超高層マンション市場動向 2021年3月末現在」によると、全国の超高層マンションの過去から将来の供給動向が報道されている。なお、各マスコミ発表とも合わせると、コロナ禍においてもその勢いは衰えていないようだ。タワーマンションは都心の居住形態の代表例としてその存在感を示している時代なのだ。
■タワーマンションの元の姿
タワーマンションを建てる際、一般に容積率の特例を受けるため公開空地を設けるといったような様々な条件を要する。つまり、タワーマンション建築のためにはかなりゆとりのある敷地を必要とするため、おのずと敷地面積は大きくなる。
しかし、それほど大きな未利用地は都心部には多くない。よって、地域一帯をまとめて再開発するケースや、自社ビルなど大きな建物を建て替えするケースなどがみられる。後者の例としては、数年前に地下鉄堺筋本町駅直結にあった帝人ビルが取り壊され、今春「MJR堺筋本町タワー」として竣工した(冒頭の写真参照)。ちなみに、元の敷地は約3000平方㍍であった。
■タワーマンションの使い道のあれこれ
タワーマンション購入のきっかけは住まい確保のほか、節税対策や相続を視野に入れたものなどその事情は様々である。以下ではタワーマンションの使い道に着目してみよう。
コロナ禍の少し前、大阪市都心部に所在するタワーマンションの業務に関わった。
物件1は北区に所在し、中層階に位置するやや小ぶりのタイプ(1LDK)でDINKS用だった。夫婦2人で利用され、専有部分内は一般的なマンションとあまり変わらない仕様だったが、エントランスからエレベーターホール、そして共用廊下などといった共用部分はタワーマンションならではの高品質な仕様であった。
物件2は西区にあり、高層階に位置するファミリー向け(3LDK)だった。物件1よりもその共用部分の設備・仕上げは高級感を醸し出していたが、専有部分を内見すると、全く使った形跡がない新築同様の状況であった。聞けば、居住するつもりはなく、将来に転売を想定した、値上がり益狙いの購入であったようである。
このような各使い道に着目した際、自ら住む、いわゆる実需タイプ(A)と、キャピタルゲイン狙いタイプ(B)があり、その他に、収益物件、すなわち賃貸用とする収益タイプ(C)などに分けられるだろう。
なお、通常、分譲マンションでは管理規約などで居住用途に限定するものがこれまで一般的であった。しかし、直近の都心型タワーマンションでは条件付きで事務所利用などを一部容認しているものも見られる。都心立地ならではの顧客ニーズにマンションデベロッパー側が応えたということだろうか。その結果、(A)は、自ら居住するもの(A1)と実態的には仕事場としての利用という事業用(A2)に分類される。
■タワーマンションがサードプレイス化、その使い道はさらに変化していくのか?
そんな中、今般、内覧した物件は、中央区のタワーマンションである。実需タイプ(A)であるものの、居住用、事業用いずれか分類しづらい事例であった。オーナー曰く、セカンドハウス的な使い方を踏まえつつ、仲間が集うビジネスの場としての顔も持つとのこと。そのオーナーは不動産会社の社長で、全国をかけ巡っている若手経営者である。彼は自宅でも事務所でもない第三の拠点として、この春にタワマンを購入した。対面で様々な情報交換を行っており、彼曰く「サロン」(A3)と称している。特に、コロナ禍で会食がしづらいため、シェフや寿司職人を手配し、部屋内で料理を作ってもらうこともあるという。営業自粛を余儀なくされている店側にとっては、その機会が創出されることや、腕が鈍ることを避けられるメリットがあり、一方、マンションオーナー側はリーズナブルな料金で料理を提供してもらえるなど、お互いウインウインの関係であるらしい。
このように、上記のタイプのうちA1、A2いずれともやや異なるA3の形態が、この社長の周りにはわずかではあるが増えつつあるとのこと。以前のコラム(「在宅勤務からサードプレイスへ移行するための受け皿を!」(未来の地図))で触れたサードプレイスの別のカタチなのかもしれない。コロナ禍の下でもマーケット環境をうまく利用する工夫の一つといったところか。
今後も増えることが予想されている都心のタワーマンションであるが、その利用方法はさらにマイナーチェンジが起きていくのかもしれない。その使い道の実態について、新たな展開にも注目していきたい。
【著者略歴】
不動産鑑定士トシこと深澤俊男(ふかざわ・としお)。不動産業界に30年以上。CBRE総研大阪支店長を経て、深澤俊男不動産鑑定士事務所を開業。株式会社アークス不動産コンサルティングを設立。大阪市立大学大学院創造都市研究科修士課程修了。