【コラム・不動産鑑定士トシの都市Walker】近畿大学のリアル講義で受講者に聞いてみた~自宅は買う?借りる?~〈21/8/27新規〉


■近畿大学にて今年も講義実施

以前の大阪公立大学関係のコラム「大阪城東部地区開発や森ノ宮駅界隈、人間味を増す「まち」のピースとは?」(未来の地図)で近畿大学の非常勤講師としての顔を持つことを紹介した。2009年から毎年夏季スクーリングにて「不動産論」という科目の講義を受け持っている。昨年はコロナ禍であったものの実施され、今年も日本全国から社会人や学生などが集まった。

近畿大学は実学教育を建学の精神として掲げており、特に、この講義を開講している通信教育部は大学の門戸を広く社会に開放すべく設立されている。「いつでも・どこでも・誰でも」という基本方針のもとその受講者の範囲は幅広い。実際に、これまでも北海道から沖縄県までの方々、未成年から70歳を超えるシニアの方々が受講していたし、数年前には海外からの留学生もこの講義に参加していたことがある。

■講義の中身を見てみると...

この講義は「分かりにくいけれども実はとても身近な不動産」をテーマとしている。世の中の多くの人にとって、そもそも小学校、中学校、高等学校を通じ、不動産をテーマとして勉強した経験はなかったのではないだろうか。「人々の暮らし」と「不動産」は密接に関連し切り離すことができないけれども、それを学ぶ機会はあまりないのが現状である。

『不動産論』と聞くと小難しそうだが、内容は初めて学ぶ人たち向けにできる限り簡単にしている。例えば、各日冒頭もいきなり講義内容に入らず、誰もが知っている最近のトピックスを新聞やネットニュースなどから選び、様々な事柄が不動産に関係していることを実感してもらっている。あわせて、意見をやりとりしながら進めるという、どこか昔懐かしい雰囲気の講義スタイルをとっている。それだけでかなりの時間を費やすことも珍しくない。こんな調子だからおのずと脱線ばかりになる。

受講者のアンケートなどによると、容易な内容で、かつ具体的な話が聞けて分かり易いと一定の評価を頂いている。特に「教科書だけでは得られない実社会にて役立つ内容だった」とか「脱線した話がおもしろかった」などというコメントをいただくことが多い。要するに堅い話だけでは20時間以上はもたないのである。

また、受講者のほぼ全てが社会人であるため、とにかく意識が高い。自ら学費を出しているからか、取り組む姿勢が違う。寝ている人はほぼいない。どんどん質問するこちらに対し、時には鋭い質問を返すなどその意見交換も第三者的には面白いのではないだろうか。

■自宅は買う?借りる?を質問してみた

国土交通省「2020年度土地問題に関する国民の意識調査」の中の、図表29に「所有と賃借の志向」という項目があり、毎年、講義にて触れている。

先般発表されたこの調査結果はこれまでのトレンドに変化がみられた。「土地・建物については、両方とも所有したい」が68・3%(前年73・5%)、「借地・借家でも構わない、または望ましい」が15・5%(前年21・8%)、「わからない」が14・5%(前年4・3%)という結果である。これまでみられた、所有派が減少傾向かつ賃借派が増加傾向から、所有派がさらに減少、賃借派はこれまでの増加傾向が止まり、わからない派が大きく増えた。この調査は20年12月に実施されたことから、コロナ禍の影響が垣間見える。

これと同様のアンケートを受講者に実施したところ、その結果は、所有派が25%、賃借派が62・5%、わからない派が12・5%であり、賃借派が最も多かった。ちなみに、この賃借派のうち、以前は所有派であったがコロナ禍により賃借派への意識が変わった人が4割いた。また、コロナ禍での変化については、フリーアンサーにて「公共交通機関を使わなくなった」、「自宅中心の生活スタイル」、「お金の使い方が変わった」などのほかに「気分が落ち込みやすくなった」、「不眠になった」という意見もあった。

なお、この結果は本講義受講者のみという限定された標本が前提でそもそも回答数が少ないことや、属性のばらつきや偏りがあるなど、これをもって何かが言えるわけでない。ただし、数値は持ち合わせていないものの、過去12年間の講義中のやりとりを踏まえると、以前の所有派が圧倒的に多かった時代から賃借派へと志向が継続的にシフトしていることや、今回はひとまず様子見するという近時みられる意見が増えつつあることを感じた。

■リアル授業からみえてくること

コロナ禍であっても、今回もリアル講義で開講したこの講義。大学としては受講者のIT(情報通信)環境への配慮もあるようだ。全ての人がリモート授業に対応できない現実を受け止め、適切な感染対策を施してリアル講義を実施する。多くの方々に門戸を開いているからこそ、それぞれの立場を踏まえ対応し、一律にリモートとはしない、という柔軟な姿勢が垣間見える。

この時代に必要な考え方ではないだろうか。上記で示したアンケート調査でも、対面はより意図が伝わりやすいし、より興味深いフリーアンサーを引き出しやすいと感じる。ホンネを知りたければ、お互いに体温を感じる対面が依然として不可欠なのかもしれない。

今年も受講者に何かを感じてもらい、心に火をともせただろうか。毎回講義が終わるたびに振り返る。来年も新たな受講者とリアルに出会えることを心待ちにしている。

【著者略歴】

不動産鑑定士トシこと深澤俊男(ふかざわ・としお)。不動産業界に30年以上。CBRE総研大阪支店長を経て、深澤俊男不動産鑑定士事務所を開業。株式会社アークス不動産コンサルティングを設立。大阪市立大学大学院創造都市研究科修士課程修了。近畿大学非常勤講師なども務める。趣味は旅行。全国47都道府県に足跡がある、自称「ほっつきWalker」。