【コラム・不動産鑑定士トシの都市Walker】未来医療国際拠点「中之島Multi-linkS」が着工!~都心での高度急性期医療の必要性~〈21/8/13新規〉


■大阪都心で医療を核とする複合施設開発が進行

大阪市北区中之島4丁目で、この8月に着工予定なのが表題の「中之島Multi-linkS」である。大阪市が公募した未来医療国際拠点を整備するこの計画は、「未来医療の創造」と「未来医療の実践」がコンセプト軸として掲げられている。

個人的に着目しているのは、この施設のしくみの中にある、「様々な患者にワンストップで対応可能な幅広い医療・健診機能を想定」や「産学医の未来医療関係者から市民まで、都心立地ならではの幅広いアクセスポイントを想定」という箇所である。中でも、「急性期医療」や「回復期医療」とそれを取り巻く「未来医療の実践」が具体的にどのようにリンクするか、どのような機能や工夫が施されるのか注目していきたい。

同じく北区南扇町にて、6月に着工した「IMW計画((仮称)医誠会国際総合病院)」も国際医療、文化創造、交流促進の3機能で構成する複合施設である。また、医療ツーリズムにも対応した560 床の高度急性期医療施設を備えるものである。

コロナ禍及びさらなる高齢化社会を迎えるにあたり、これら都心での医療施設の充実に期待している人は多いのではないだろうか。

■高度急性期医療施設の必要性

医療系ドラマの視聴率は総じて高いという。TVドラマ「コード・ブルー」は複数のシリーズが放映され、その後、映画化もされた。今も同様の医療系ドラマがいくつか放映中である。命をテーマにしたとき、人は生物としての本能的なものから共感を覚えるからだろうか。昨今のコロナ禍の影響もあるのかもしれないが、救急救命がさらに身近に感じられてきたような気がする。

現実に、世の中にある救命救急センターは、急性心筋梗塞や脳卒中、重傷の外傷などの重篤な患者の命を救うために、各地域における高度急性期医療の大きな期待を担っている。

■救急救命に関する象徴的な2つの事例

上記開発にある「都心立地ならではの幅広いアクセスポイント」という箇所とも関連するが、高度急性期医療施設は、まずは公共交通機関や自家用車などでのアクセスが容易な利便性の高い都心に所在すべきと考える。

なぜだろうか。ここで、2つの事例を紹介してみたい。

当時、彼らはいずれも40代男性。バリバリと働く現役世代であるが、ともに脳卒中で救急搬送された共通点を持つ。

Aさんは、ゴルフ場でラウンド中に倒れた。郊外だったため、救急車を呼ぶものの到着は遅れ、また、搬送開始後も病院までかなりの時間を要した。命に関わる事態は回避されたものの、搬送時間が長くかかったため、その後長期にわたり重い後遺症を抱えている。

一方、Bさんは、都心のビル内で会議中に倒れた。救急車が呼ばれ、わずか数百㍍先にある、高度医療が可能な病院へ搬送され、緊急手術が施された。倒れてから30分未満という短い時間での対応着手と適切な処置をしたことが功を奏したらしい。早い段階で社会復帰が可能となった。

救急救命とはまさに分刻みという時間との勝負であり、その後の人生も変わるのである。それがよくわかる事例であろう。1分でも早く処置すべしといわれる所以である。

■都心に所在することの意義

あわせて、患者は適切な場所に運ばないと必要な処置を受けられない事実がある。近時はドクターヘリやドクターカーが運用されているものの、絶対数の点などで、現状、網羅的にカバーできているとはいえない。そもそも、それらは病院へ到着するまでの橋渡し的な処置を施す機能に過ぎず、一般に、救急救命措置が高度になればなるほど、現場や移動中にて対応できる範囲は狭められる。

要するに、現時点では、救急救命には高度急性期医療施設そのものが、人の多く活動する場所、つまり都心エリアに近接所在すること、そこへ患者を迅速に運ぶことという両者を充たす必要があるのだ。これらの結果により、救命の確率がさらに高まるのではないだろうか。

以前の淀屋橋再開発のコラム「注目の再開発プロジェクトが本格始動!淀屋橋駅界隈の未来の地図が変わる?」で、まちが「生き続ける」ということについて触れたが、加えて、都心のまちづくりにおいては、ヒトの命を「救う」ことや「生かす」という点にも着眼していくべきだろう。

コロナ禍が続き、医療について触れる機会が増えている今、都市のあり方に「医療施設」をどう位置付けるか、そして、その質と数について考えるよいときではないだろうか。

【著者略歴】

不動産鑑定士トシこと深澤俊男(ふかざわ・としお)。不動産業界に30年以上。CBRE総研大阪支店長を経て、深澤俊男不動産鑑定士事務所を開業。株式会社アークス不動産コンサルティングを設立。大阪市立大学大学院創造都市研究科修士課程修了。近畿大学非常勤講師なども務める。趣味は旅行。全国47都道府県に足跡がある、自称「ほっつきWalker」。