【コラム・不動産鑑定士トシの都市Walker】「御堂筋沿い路面銀行店舗調査【淀屋橋~本町】編」~直近10年の変化~〈21/7/30新規〉


■銀行を取り巻く世の中の状況

遡ること30数年前、就活希望企業の上位にはメガバンクが並んでいた。しかし、近時、銀行(※)を志望する学生は減少傾向にあるという。数年前に社会現象を起こしたドラマ「半沢直樹」。先般、三菱UFJ銀行にてリアル半沢頭取が着任したものの、その風向きが大きく変わったようには感じない。銀行が世の中の牽引役だった世代にとってはすでに過去の話なのか。低金利時代が続く中、各銀行はコスト削減の名のもとに、店舗の削減や再編を進めている(5大銀行 4年3月期の増益見込む 消えない貸し倒れ懸念 店舗削減などの効率化=産経新聞)。

そんな中、足元の大阪都心において銀行にはどのような動きがみられるのだろうか。

(※)本コラムでの「銀行」とは銀行法上の銀行のほか、これに類似する金融機関を含む。

■「御堂筋沿い路面銀行店舗調査【淀屋橋~本町】編」結果から

株式会社アークス不動産コンサルティングでは、2011年から都心ビルの定点観測をしている。本調査は、その対象範囲の一つである御堂筋エリアについて、同通り沿いにおける路面事業所の変遷状況の中から、路面銀行の店舗の動向を抽出しまとめたもの(『都心路面事業者観測調査 御堂筋沿い路面銀行店舗調査【淀屋橋-本町】編』)である。

今回の対象区間は淀屋橋駅から本町駅とした。11年4月は11件の銀行が営業していたが、徐々に数を減らし、21年4月には5件と半分未満となっている。減少したもののうち、ビルの建替による退店を除くと、移転は3件、店舗統合は2件である。

3件の移転の動向は以下の通り。

1件目は千葉銀行。本町4丁目の「第二有楽ビル」1階に入居していたが、12年12月に淡路町3丁目の「御堂筋MTRビル(旧NMプラザ御堂筋)」へ移転した。

2件目は農林中央金庫。瓦町3丁目の「銀泉御堂筋ビル」1~4階に入居していたが、14年9月に今橋4丁目の「淀屋橋三井ビルディング」へ移転した。

3件目は但馬銀行。伏見町4丁目の「WAKITA藤村御堂筋ビル」1階に入居していたが、18年3月に「御堂筋MTRビル」へ移転した。

これら3件に共通するのは、以下の点である。

一点目はいずれも空中階、いわゆる2階以上への移転であること。二点目は移転先がいずれも御堂筋沿いのビルであることである。すなわち、この3事例については、賃料負担を軽減させつつも、立地ポテンシャルはあまり落とさない移転戦略をとっているのではないかと考えられる。

■銀行跡への新たな入居者とは?

それではこれら移転した銀行の跡はどうなっているのだろうか。21年4月現在の入居状況は以下の通りである。

上記1件目については、「ヤマギワ」の大阪ギャラリー・ショールームが入居している。

同2件目については、「マニフレックス」と「Yogibo Japan」がいずれもショールームとして利用している。

同3件目については、「Uber Partner Center Osaka」。昨今、話題のウーバーイーツのパートナーセンターである(なお、21年7月現在、営業休止中で入居は確認されていない)。

このほか、店舗統合した銀行跡へも、新たな動きがみられる。伏見町3丁目の「三菱UFJ信託銀行ビル」1階へ入居したのは「MUIC KANSAI」で、観光産業をテーマとしたイノベーション創出拠点を目的としている一般社団法人である。三菱UFJ信託銀行は、ビル竣工時から自社利用してきたが、21年2月に1階銀行店舗を北区の別支店と統合した。その退店した1階スペースを、この団体に参加する複数の会員企業が利用している。

■今後の御堂筋路面の光景とは

以上のように、御堂筋路面の銀行跡は、どちらかというと柔らか系の事業者の進出が多くなってきたのではないだろうか。商品・サービスを五感で楽しむ場であるギャラリー・ショールームや、上記のような新しい業態などこれまでとやや異なった雰囲気を感じる。都心のメインストリートといえば金融機関が連なるという従来の姿は、昔なつかしい地図になりつつある。

この7月上旬のニュースで、グーグルが日本で金融サービス事業に参入との記事(日本で送金本格参入 米グーグル、新興企業買収へ=時事通信)があった。また、アマゾンも将来的に参入する可能性があるという。これらの動きは、次の時代、都心での銀行店舗の都心のあり方にさらなる影響を与えるかもしれない。はたして次の10年後にはどんな光景がみられるのだろうか。

【著者略歴】

不動産鑑定士トシこと深澤俊男(ふかざわ・としお)。不動産業界に約30年。大手不動産サービス会社(現CBRE)でCBRE総合研究所大阪支店長を経た後、2009年に深澤俊男不動産鑑定士事務所を開業、12年に株式会社アークス不動産コンサルティングを設立。大阪市立大学大学院創造都市研究科修士課程修了。近畿大学非常勤講師などを務める。趣味は旅行。全国47都道府県に足跡がある、自称「ほっつきWalker」。