【コラム・不動産鑑定士トシの都市Walker】注目の再開発プロジェクトが本格始動!淀屋橋駅界隈の未来の地図が変わる?〈21/7/16新規〉


■ミズノ淀屋橋店が閉店

先般、スポーツ用品店「ミズノ淀屋橋店」(大阪市中央区)がその生涯を閉じた。94年の営業期間中、映画の中ではあるが、ゴジラに壊されたこともあった。都心マラソンランナーの集まる場所として話題になったことも懐かしい。6月30日に現地に赴くと、閉店日とは思えないほどの人、ビルを撮影している人もいた。最後にもう一度見ておきたいという人たち、各々がこの建物に対して感じるところがあるのだろう。

■淀屋橋駅界隈で進捗中の様々な開発

淀屋橋駅西地区第1種市街地再開発事業」。この長い事業名を聞いてピンとくる人は不動産事情に明るい方だろう。上記の閉店したビルを含む、街区一体の再開発名であり、まさに今、進捗中である。四方を道路に囲まれたこの計画は、地上28階建て、延床面積13万平方㍍を超える巨大なビルとして生まれ変わる。

また、御堂筋を渡った東側対面でも「淀屋橋駅東地区都市再生事業」が進行中である。

これらの結果、2025年、御堂筋沿いで淀屋橋駅に直結した2棟の再開発ビルが竣工予定である。ちなみに、これらを総称して、業界では淀屋橋ツインタワーと呼んでいる。ともに、以前のコラム「御堂筋沿いの「ボスビル」とは?~2020年秋~」でも紹介した、地域のボスビルにふさわしい再開発であろう。

ツインビルというのはこれまでも大阪都心で散見された。例えば、梅田スカイビル。近時でいえば、中之島フェスティバルタワー・イースト&ウエストなどであろう。いずれも知名度が高く、何よりも見た目の圧倒的な存在感が際立つ。

さらに、これらに先立つ22年には「日本生命淀屋橋ビル」が土佐堀通沿いの京阪淀屋橋駅直上に竣工予定である。このビルは竣工時点で、このエリアでは最も背が高い120㍍を超えるという。

このように、22年から25年の期間で、淀屋橋駅直結という狭い範囲に、5万平方㍍を超えるビルが合計3棟竣工する。淀屋橋駅界隈は大きく変わりつつあるのだ。

■マチはしばらく冬眠状態?

冒頭のミズノ淀屋橋店の例を出すまでもなく、再開発には通らねばならない道がある。ここでは地権者間交渉や権利変換、建築方式、技術上の諸課題など専門的なことはさておき、誰もが目に見える、これから起きるであろう姿のうち、留意点を一つ紹介しよう。

当たり前の話だが、開発の期間中、建物は存在しない。その間、その土地は何も生み出さない状態になる。工事用の壁が作られ、工事関係者以外の一般人はその敷地への立ち入りができない状態になる。

不動産がモノとして存在しているものの、本来発揮する機能を停止し、いわば冬眠しているような状態になるといえば分かり易いかもしれない。これはマチにとっては決して好ましい状態とはいえないが、再開発では不可欠なプロセスである。

単一の建物であれば、敷地もそれほど大きくなく周辺への影響も限定的であるが、街区全体レベルの再開発となると、その街区が一定期間にわたって眠ったようになり、それが長期になればなるほど周辺エリアに与える影響は大きくなる。変化のスピードが速い昨今、淀屋橋駅界隈の地域イメージはこの間、どうなっていくのだろうか。

■近未来の淀屋橋駅界隈は?~関係者が口にするフレーズ~

そんな中、淀屋橋駅界隈のビルオーナーなど地域に関わりのある方々へヒアリングをしてみた。回答としては、今後について不透明感はあるものの、将来性を期待しているものが多い。その中で、印象的なものを紹介してみたい。

一つは、昨今、梅田地区の注目度が高いものの、淀屋橋地区も侮れないというものである。その理由の一つは、エリアの安全性である。近時、利用頻度が増えているハザードマップによると、大阪都心ビジネス地区のうち、梅田地区は水没を免れないエリアが多いという。対して、中央区のビジネスエリアは被害を比較的受けにくい。時節柄、自然災害の脅威を踏まえた観点で、淀屋橋地区は不測の事態においても「生き続ける」という意見である。

二つは、所有している土地を活かすため、今回の再開発に協力する決断をしたというものである。かなり以前から、淀屋橋地区はビジネス拠点として可能性を有していたが、各種規制による容積率の課題など、これまでそのポテンシャルを十分に発揮できていなかった。それが今回の再開発により実現するという。眠っている可能性を引き出し、文字通り土地を「活かす」時期が到来したという意見である。

冬眠が明ける25年時点での淀屋橋駅界隈の開発後の姿、その未来の地図はどのように描かれているだろう。関係者の思いのように、生き続け、活かすことを願うばかりである。

【著者略歴】

不動産鑑定士トシこと深澤俊男(ふかざわ・としお)。不動産業界に約30年。大手不動産サービス会社(現CBRE)でCBRE総合研究所大阪支店長を経た後、2009年に深澤俊男不動産鑑定士事務所を開業、12年に株式会社アークス不動産コンサルティングを設立。大阪市立大学大学院創造都市研究科修士課程修了。近畿大学非常勤講師などを務める。趣味は旅行。全国47都道府県に足跡がある、自称「ほっつきWalker」。