【コラム・不動産鑑定士トシの都市Walker】路線価発表!~ミナミの注目売買事例とドラッグストアの今~〈21/7/2新規〉


■2021年相続税路線価が発表

7月1日、国税庁から相続税路線価『財産評価基準書』が発表された。具体的な場所の路線価は同ホームページを参照するとして、「路線価、6年ぶり下落=39都府県でマイナス―コロナ影響、商業地で顕著・国税庁」(時事通信社)などの報道がみられた。

そもそも、このコラムは一般の方向けであり、不動産市場にあまり詳しくない方へ、この路線価を利用する際の注意事項の一つを紹介したい。それは、今回発表された路線価とはあくまで21年1月1日現在、すなわち半年前の時点のものである。以前のコラム「大阪・キタの地価がミナミを逆転!そもそも地価調査を見る際に気をつける点とは?」(未来の地図)でも紹介したが、公的評価は価格の基準となる日(価格時点)とそれが発表される日(発表時点)にタイムラグが生じている。

この両時点の期間が長い場合、そして地価の安定していない時期にはその取り扱いに注意が必要である。まさにこの1年余りは世の中の激変期に当たり、半年というタイムラグを踏まえて、地価水準を認識すべきだろう。

さらに、21年上期には、ミナミの繁華街などの限定された地区に対して、路線価の修正が発表「大阪 ミナミの路線価 新型コロナで2回目の減額補正 国税庁」(NHK)されるなど、これまでとは異なる状況下にある。

ただ、だからといって、ミナミ界隈の不動産市場は後ろ向きばかりなのだろうか。

■ミナミの注目トピックス~象徴的なビルの売買や心斎橋筋の店舗市況~

先般、大阪ミナミで有名なビルの売買が報道された「道頓堀のランドマーク、住友商事から独デカへ」(日経不動産マーケット情報)。戎橋のたもとにあり、約2年前に住友商事が購入した、ミナミの象徴的な商業ビルである。

業界内では、現所有者は国内事業会社でもあり中長期的に保有するのではといわれていたが、想定外の事情であるコロナ禍の影響も作用したのかもしれない。ただ、記事によると、売却益が出ているようで、ビジネスベースとしては上出来なのだろう。

一方、ミナミ地区を牽引している店舗の出退店について取材すると、飲食店舗を中心に撤退がみられ、依然として空き物件が増えているようである。ただ、賃料水準にもよるが、新規進出のニーズそれ自体は大きく衰えているとは感じないという声も聞かれた。また、以前のコラムにて回転寿司の旗艦店進出の話題「「旗艦店」と称される回転寿司店が大阪の都心に進出!」(未来の地図)を提供したが、これはコロナ禍中においても有名飲食店が都心部へ新規出店したという象徴的な事例であろう。

■心斎橋筋沿いのドラッグストアの今

そんな中、以前から問合せの多いドラッグストアの展開状況について、アークス不動産コンサルティングでは「都心店舗観測調査~心斎橋筋沿いドラッグストア(21年6月期)」を実施した。同資料によると、この1年半の間、トータルで2件減少しているに過ぎず、現時点においては、以前に危惧されていた撤退が相次ぐ状況ではない。また、コロナ禍中においても出店などの動きもゼロではないのである。

■さまざまなシグナルを冷静に見つめ、来たるべき日を迎えよう

これらは特定の事例や現象に過ぎないし、地域全体にあてはめるつもりはない。しかし、ミナミ界隈のポジションが低迷という世の中の風潮については、数年前の好調な時期との比較も考慮に入れる必要があるのではないだろうか。要は良過ぎだったからではないか。

また、コラム冒頭の報道は事実として受け止めるべきであろうが、世の中の過度な悲観論に惑わされることなく、今一度、前向きなシグナルを冷静に見つめてはいかがだろう。

現時点では、それがいつなのか定かではないものの、明けない夜はない。来たるべき喜びの日を、ミナミの店主の方々と分かち合いたいものである。

【著者略歴】

不動産鑑定士トシこと深澤俊男(ふかざわ・としお)。不動産業界に約30年。大手不動産サービス会社(現CBRE)でCBRE総合研究所大阪支店長を経た後、2009年に深澤俊男不動産鑑定士事務所を開業、12年に株式会社アークス不動産コンサルティングを設立。大阪市立大学大学院創造都市研究科修士課程修了。近畿大学非常勤講師などを務める。趣味は旅行。全国47都道府県に足跡がある、自称「ほっつきWalker」。