■世界を駆け巡る物流関連ニュース
3月、エジプトのスエズ運河でコンテナ船が座礁したニュースが世界を駆け巡った。一定期間続けば世界の貨物輸送に混乱が生じる懸念がささやかれた。6月3日の日本経済新聞の朝刊一面には、「物流渋滞が世界経済に影」という見出しで報道された。モノの渋滞で製品入荷に遅れが生じ、世界経済の足かせになるのではというものである。
いつから物流の話題はこのように大々的に取り上げられるようになったのだろうか。
1990年代、デジタル時代の到来が叫ばれている頃、将来的に業務のかなりの部分がIT化により変化するといわれていた。現実には概ねその通りであり、日常生活や働き方において情報やデータに置き換えられるものはインターネットなどを介して行われ、その利便性を享受している。一方、物の動き、すなわち物流に関してもインフラの整備やサービスの充実などで、より速く、より便利に運べるようになった。しかし、そもそも「モノ」を運ぶこと、それ自体はあまり変わらない状況にあるのではないだろうか。
■物流セクターの独り勝ち?
この度のコロナ禍での不動産マーケットについてざっとおさらいしてみよう。ホテル・商業施設については底を打った感はあるものの依然低迷が続いている。オフィスは都心からの移転やリモート対応で一部先行き不透明感がある。住宅は比較的堅調であるが、将来人口減少などにより中長期的に期待されるエリアは限定されている。
このように他のタイプが順調とはいえない中、物流分野については、コロナ禍前からのEコマースの拡大、そしてコロナ禍における巣ごもりによる商品配送など追い風が続いている。各調査会社の発表や物流マーケットに造詣の深い方々からは、好調さはまだしばらく続くという意見が大部分であるなど、現状、そして今後ともに明るい見通しにある。
■大阪エリアで日本GLPが物流施設を開発
そんな中、日本GLPが大阪市東住吉区で物流複合施設を開発するリリース「日本GLP大阪市と東住吉区矢田南部地域における開発事業に関する協定ならびに 土地建物売買契約を締結」が発表された。単なる物流施設だけでなく、商業施設やその他公園なども整備する敷地面積5万6000平方㍍の計画である。あくまでメインが物流施設でありつつ、まちづくりを意識した複合計画が興味深い。
同社は物流施設を主な開発・運営対象とした、シンガポールを本社とする投資会社である。約130物件、総延床面積約980万平方㍍の物流施設を日本全国に展開している(同社HP参照)。大阪府茨木市や大阪府八尾市でも新規計画を発表するなど、大阪都心部近郊にて新規展開が続いている。
■日陰の脇役から主役級、そして不動産マーケットの牽引役へ
その昔、貸倉庫といわれていた頃には、湾岸エリアや川のほとり、市街地外延部など都心からすると辺境に立地していた。また、マーケット的にはオフィスビルや商業施設と比較して花形の道を歩んではなかった。そんな時代を思い起こすと、隔世の感があるのは筆者だけではないだろう。女性タレントを使ったテレビCMを使い、「物流施設」を手掛けていることで企業イメージを高める、今や、そんな時代である。
まだ、この業界の駆け出しの頃、21世紀は「モノ」を集配する施設も主役級となる時代が到来するに違いない、同時に、倉庫がグレードアップしていくだろうと夢想していた。事実、21世紀初頭くらいから、倉庫はオフィスビルと変わらない高度な機能を持つものも現れるなどその建物スペックの充実さには目を見張るものがある。このような経緯もあり、近時、物流施設はオフィス、商業、住宅、ホテルと同じく主役級の投資対象として並び立っている。そして、今回の災禍により、その存在感は高まり、さらに注目度が増している。
将来的には、ドローン、無人運搬車などが物流分野にも導入されることが構想されており、各地で実験が試行されている。実用化に向けて解決すべき課題はあるものの、アフターコロナでの不動産マーケットも「モノ」が牽引する姿に注目したい。
【著者略歴】
不動産鑑定士トシこと深澤俊男(ふかざわ・としお)。不動産業界に約30年。大手不動産サービス会社(現CBRE)でCBRE総合研究所大阪支店長を経た後、2009年に深澤俊男不動産鑑定士事務所を開業、12年に株式会社アークス不動産コンサルティングを設立。大阪市立大学大学院創造都市研究科修士課程修了。近畿大学非常勤講師などを務める。趣味は旅行。全国47都道府県に足跡がある、自称「ほっつきWalker」。