一昨日の5日は、こどもの日だった。
毎年、この時期に発表される総務省統計局の「我が国のこどもの数」。こどもの数は40年連続で減り続けており、こどもの割合は諸外国と比べ最低水準である。
そんな子供たちが通う大阪都心のある小学校に注目してみたい。
その小学校の児童数は2017年(実績)は245人の8クラスだったが、22年(想定)には594人の18クラスに増える。さらに27年(想定)には835人の25クラスになると『大阪市内中心部児童急増対策PT(第3回資料)』はいう。
そう、今後、児童数は増え続けるのだ。
その学校とは、中央区今橋1丁目にある開平小学校。地下鉄北浜駅からほど近い場所で、上記資料内の「特に課題のあるとされた学校」(9校)のうちの一つである。
この小学校では児童の急増に伴い、まずは近隣の一般ビルを利用しようとしたが、一般ビルと学校とでは建物の仕様や法規制が異なり活用を断念した。そこで、普段使わない図工室などを転用し教室を増やしたが足りず、運動場に校舎を建てることとなり、現在建築中である。ただ、その影響で運動場が一部使えず、体育の授業については、隣の北区にある中之島公園まで往復30分かけて通っているという。
先日、その小学校に通う児童の保護者に話を聞いたところ、体育授業のたびに公園まで歩くのは大変ではあるが、現状、特に不満の声は耳にしないとのことだった。ちなみに、その家族は都心のタワーマンションに居住し、普段、地下鉄で通学している。なお、直近の緊急事態宣言下では通学が制限されリモート授業が続いているが、給食を食べるために通学しており、共働きの親としては負担感が大きいという意見もあった。
1980年代から90年代にかけて、開平小学校の前身である愛日小学校、集英小学校が統合されるなど大阪市中央区では小学校の統合が相次いだ。
しかし、都心回帰がみられた頃から、中央区のほか北区、西区などの都心区では小学校の不足というこれまでと逆の課題が現れている。一方で、大阪市内でも周辺区については今も統合が検討されている。子供たちの教育の場がまちの環境や時代に翻弄されているように感じているのは私だけではないだろう。
そんな中、大阪市としてもすでに紹介したとおり、「児童急増対策プロジェクトチーム」を設置して対策を検討し、児童数の急増や過密化に対応している。
一方、他都市では、東京都中央区において同一区内で児童数の増加と減少がみられる。そこで、従来の通学区域を残したままで、どこからでも就学を認める特認校と呼ばれる同区内の公立小学校の入居先が、オフィスやホテルなどと同居した複合ビル「八重洲2丁目北地区第1種市街地再開発事業」として建築中だ。なお、同ビルは東京駅の目の前という場所にあるが、先ごろ、その名称が「東京ミッドタウン八重洲」に決まり、竣工は2022年8月末と予定されている。ちなみに、入居を2年後に控えた20年度の新1年生の入学競争率は13倍を超えるという。
以前のコラムで、大阪市内に大学が設置されるテーマ『新たな開発からみる、人間味を増す「まち」のピースとは?』を取り上げたが、都心の教育施設についての話題は近年少なくない。また、コロナ禍が重なったことで、教育現場もこれまで以上に注目されている。
ここ数年、大阪都心のビジネス街で見かける子供の数は確かに多くなったように感じる。彼らはどんなことを感じながら、学校に通っているのだろうか。子供にとっての負担感は大人たちが感じるそれとは異なるのかもしれない。
大切なことは各シーンで声を上げにくい子供たちの本当の気持ちや思いをまずはしっかりつかむことではないだろうか。大人たちの都合が優先されることで、彼らが犠牲になってはならない。
そんな都心で生活する子供たちが増え続けている現状を踏まえると、後回しになりがちな「子供を育む」ことを基本軸の一つとし、また重点課題とした上で、都市環境整備の優先順位を再考する必要がある。
毎日が「こどものための日」であってほしいものである。
【著者略歴】
不動産鑑定士トシこと深澤俊男(ふかざわ・としお)。不動産業界に約30年。大手不動産サービス会社(現CBRE)でCBRE総合研究所大阪支店長を経た後、2009年に深澤俊男不動産鑑定士事務所を開業、12年に株式会社アークス不動産コンサルティングを設立。大阪市立大学大学院創造都市研究科修士課程修了。近畿大学非常勤講師などを務める。趣味は旅行。全国47都道府県に足跡がある、自称「ほっつきWalker」。