先般、2021年のプロ野球が開幕した。野球好きにはたまらないシーズンの到来である。昨年はコロナ禍で試合数が少なく、また無観客試合などリアルな球場での応援が制限されていたこともあり、球場に足を運ぶことへの期待が高まっているであろう。
そこで、今回はホーム球場の都市内における立地についてみてみたい。
立地を測る簡便な尺度として、ここでは都心からの球場までの所要時間とする。便宜上、立地する都市内で路線価の最も高い地点を都心とし、そこから公共交通機関での所要時間+最寄り駅からの徒歩時間を分数換算したものを目安とした。
この場合、都心からの所要時間が最も短いのは12球団のうちどの球場だろうか。
その結果、最も短いのは横浜スタジアム(DeNAベイスターズ)だった。上記路線価が最も高い地点はJR横浜駅西口の駅前。そこからJRを利用して関内駅まで5分、そして徒歩3分。乗り換えもなくトータルで10分かからない。
一方、所要時間が長いのは、ナゴヤドーム(中日ドラゴンズ)とマリンスタジアム(千葉ロッテマリーンズ)で、ともに30分を優に超える。
ちなみに、12球団の平均値はおおむね20分。関西の2球場については、甲子園(阪神タイガース)は同じく西宮北口駅前地点から約15分、大阪ドーム(オリックスバッファローズ)が同じく梅田阪急百貨店前から約25分である。
ところで、同じことを30年あまり前と比較してみると、結果は大きく異なってくる。周知のとおり、当時、関西には、南海、近鉄、阪急の3球団があり、それぞれ難波駅至近に大阪スタヂアム、森ノ宮駅至近に日本生命球場(通称は日生球場で、準本拠地球場)、西宮北口駅至近に阪急西宮スタジアムが存在した。
その3つともに最寄駅からの所要時間は極めて短く、都心近接型というよりむしろ都心密接型というべきであろうか。これは電鉄関連企業が親会社であることからうなずける。
なお、それらは時代の経過とともに取り壊され、それぞれなんばパークス、森ノ宮キューズモール、西宮ガーデンズと大型複合施設に変貌している。これも駅への近さや人流等を考慮すると、その土地活用方法は当然であろう。
『プロ野球専用球場の立地特性と周辺整備に関する研究』(CiNii論文)によると、数多くの球場の立地特性などがまとめられている。中でも、球場敷地の従前・従後の土地利用については興味深い。
従前用途は、未利用地、埋立地、公共用地の他は練兵場や軍需工場を含めた工場等が比較的多い。つまり、戦後において軍関係の大規模地の利活用、工場跡地からの転用などに球場が用いられているのである。さらに、その後の周辺環境の変化により他の施設へ転身するなど、そこには球場が立地する経緯やそこに関わる様々な物語が垣間見れる。
また、参考までに、野球に限らず、スタジアムへスポーツ観戦に訪れた人は、どのくらいお金をかけているかという調査結果「【速報】2020年スポーツマーケティング基礎調査」)がある。これによると、スタジアム観戦にかかる費用は1回あたり9865円、年間で3万4184円だという(20年9月調査時点)。ちなみに、それらはチケット代、交通費、飲食費、グッズ費、記念品費などを含めたものである。なお、両者ともに昨年調査比で、それぞれマイナス6・0%、マイナス17・9%と減少しているが、これにはコロナ禍の影響もあるのではと思われる。
個人的な感想であるが、チケット代とともに大きいのは交通費、グッズ費であろう。コアなプロ野球ファンは、遠征という名目で日本中を転戦することも珍しくなく、新幹線移動はもちろん、空路を使うこともある。また、一般的な応援グッズのほか、昨今はユニフォームを着る応援スタイルが定着しているため、ユニフォームチェンジのたびに購入するとその総額は嵩むし、特注グッズなどは驚くべき金額になるなどその波及効果は大きい。
ちなみに、私も野球ファンの一人であるが、これまで札幌から博多まで各都市の球場を訪れ、その立地や周辺の様子をウォッチしていたが、2020年はコロナ禍のため自粛していた。
現時点においてもそれは収まらない状況が続いているため、球場立地やその物語に思いを馳せつつ、リアルな球場に赴いて、再び声援を送れる日を心待ちにしている。それは全国プロ野球ファン2460万人(前記共同調査)ときっと一緒であろう。
【著者略歴】
不動産鑑定士トシこと深澤俊男(ふかざわ・としお)。不動産業界に約30年。大手不動産サービス会社(現CBRE)でCBRE総合研究所大阪支店長を経た後、2009年に深澤俊男不動産鑑定士事務所を開業、12年に株式会社アークス不動産コンサルティングを設立。大阪市立大学大学院創造都市研究科修士課程修了。近畿大学非常勤講師などを務める。趣味は旅行。全国47都道府県に足跡がある、自称「ほっつきWalker」。