【コラム・不動産鑑定士トシの都市Walker】2021年地価公示が発表!まちに残るインバウンドの足跡は何を思う〈21/3/26新規〉


先日、『2021年地価公示』が国土交通省から発表された。20年1月1日から21年1月1日の1年間を前提としているため、ほぼコロナ禍での1年を示している。そのため、関心が高く、弊社にもマスコミ取材のほか、問い合わせが多く寄せられた。ちなみに、具体的な地点の価格などについては『国土交通省地価公示・都道府県地価調査』を参照されたい。

今回発表された中で注目した点は、以下の3点である。

一つ目は「特徴的な地価動向が見られた各地点の状況」で、例年よりも項目数、紹介地点数が増えていることだ。公的評価についてはリアルな数値に着目しがちであるが、このようなトピックス的なものも有益である。

今回の地価公示では、「最高価格地の地価動向」、「繁華街の地価動向」、「観光地の地価動向」、「首都圏に近い別荘地の地価動向」、「インフラ整備等の影響」、「物流施設の需要の高まり」の6項目で具体的な49地点が列記されている。ちなみに、半年前の地価調査では5項目で12地点が紹介されていた。

中でも、興味深いのは前回の地価調査にはなかった「観光地の地価動向」で、下落傾向が明確と思いきや、下落地点と上昇地点が混在している。上昇地点として挙げられているのは、北海道倶知安町の2地点のほか、長野県白馬村の2地点、沖縄県宮古島の1地点である。

その理由は、それぞれコロナ収束後の開発計画があること、国内事業者の需要の堅調さや長期的観点から観光産業に対する発展が期待されることであり、観光地であるから地価は必ずしも下がっているというわけではないのである。

二つ目は、「大阪圏」において最も大きな上昇率地点が、「住宅地、「商業地ともに箕面市の船場地区であったことである。その主な理由は北大阪急行線延伸による利便性向上のほか、大阪大学の新キャンパス開設などが挙げられる。前回の地価調査では商業地の最大上昇率地点が淀川区の新大阪駅界隈であったことに続き、今回も大阪市北区または中央区の地点ではないなど、これまでとは様相が異なることを示している。

三つ目は、大阪ミナミの「8地点(P7参照)」が全国の変動率下位順位の大部分を占めることとなったことである。ちなみに、これらは戎橋付近を中心にわずか数百㍍という狭いエリアに集中している。ここまで限定的なエリアが全国の下位順位を占めるのは近年であまり例がない。それだけインバウンドの影響が大きいということの裏返しであろう。

これまで少なからず寄与していたインバウンドがほぼ消滅している今、大阪ミナミ界隈にとってはマイナス要素ばかりなのだろうか。

20年の暮れに、道頓堀界隈では公示価格を大幅に上回る取引がみられたほか、潜在的にこのエリアを引き続き注目している国内外の事業者や投資家は少なくない。

一方、店舗については、直近でテナント募集看板が増えていることは確かであるが、その反面、人通りが戻りつつあり、これまで上昇しすぎた賃料を従来の水準へ抑えるなどで一定の需要は確保できるだろう。さらに、目につきにくいものの既存テナントの営業努力は随所にみられるし、賃貸借当事者間での共助的な対応などもあり、このまま地盤沈下していくとは考えにくいと感じている。

冒頭の写真は、JR天王寺駅構内にある地下鉄線・近鉄線との連絡通路の地面に描かれたものである。そもそもの目的は、外国人観光客を主な対象としたサインなのであろうが、今となってはそれだけではない。まちに出てくることの少ない高齢者、試験でたまたま赴いた受験生、出張で訪れたビジネスマンなど大阪都心居住者以外の地理感のない人にとっては、心強い味方となっているのではないだろうか。

外国人のために設置されたであろうこのサインが、現状、それ以外の人々をサポートしているのは興味深い。将来、外国人が戻ってきたときには、再び彼らの道標ともなるだろう。

コロナ禍が収束し、まちに訪れる様々な人たちを、この足跡は待っている。

【著者略歴】

不動産鑑定士トシこと深澤俊男(ふかざわ・としお)。不動産業界に約30年。大手不動産サービス会社(現CBRE)でCBRE総合研究所大阪支店長を経た後、2009年に深澤俊男不動産鑑定士事務所を開業、12年に株式会社アークス不動産コンサルティングを設立。大阪市立大学大学院創造都市研究科修士課程修了。近畿大学非常勤講師などを務める。趣味は旅行。全国47都道府県に足跡がある、自称「ほっつきWalker」。