【コラム・不動産鑑定士トシの都市Walker】新たな開発からみる、人間味を増す「まち」のピースとは?〈21/3/12新規〉


時節柄、大学受験が佳境に入っている。すでに桜が咲いた人、これから咲かせようとする人、今回はコロナ禍もあり相当な苦労があったと思うが、まだ進路が決まっていない人たちにエールを贈りたい。

私事であるが、2009年から12年間にわたって、東大阪市にある近畿大学において夏季スクーリングで「不動産論」という講義を受け持っている。この講義の受講者は社会人がメインであり、10代から70歳を超える方々まで、学びたいという志を持つ老若男女が集う場となっている。文字通り、生涯学習といったところだ。

さて、コロナ禍の中、この講義は20年の夏も実施されたが、リアル授業だった。大部分の大学がリモート授業を実施している中で、受講者の要望などを受け、感染対策を徹底した上での措置であったが、リモートでは体感できない直接のやりとりやワークなどリアル授業ならではの良さをあらためて感じた。

ただし、校内に人はほとんど見られず、また駅から学校までの通りも閑散としたもので、いつもは賑わっていた飲食店も客はほとんどいない状態であった。コロナ禍の後、大学という存在がどういう方向に進むのだろうか。

このように例年とは異なる大学風景であるが、そんな中、22年に大阪都心に予定されているのが「大阪公立大学」だ。大阪府立大学と大阪市立大学を統合、大学は12学部・学域、大学院は15研究科が設置され、予定学生数は約1万6000人と、公立大学としては日本最大の規模となる。学部学生入学定員は、国公立大学としては大阪大学、東京大学に次いで第3位になるという。

そのメインキャンパスが予定されているのが、森ノ宮界隈だ。「大阪城東部地区のまちづくりの方向性」によると、JR森ノ宮駅からJR大阪城公園駅にかけてのかなり広い範囲で、かつ今後の拡張可能性を含んでいる。

森ノ宮というと、以前あった日生球場のイメージを持つ方もいるかもしれない。その跡地に近年、「もりのみやキューズモールBASE」が開業し、「まち」の雰囲気が変わりつつある。

ただ、森ノ宮駅は、JR大阪環状線の乗り換え可能な駅の中では乗降客数がそれほど多くない(『大阪統計年鑑』によると、JR森ノ宮駅:2万5082人(18年度)、地下鉄森ノ宮駅:1万7548人(18年)。類似している京橋駅、玉造駅や弁天町駅などと比べて少ない)。その理由は一概には言えないものの、ビジネス客や学校が少ないため、通勤・通学などを目的とした乗降客数の差もあるのではないだろうか。

また、関西圏ではないものの、先般、名古屋外国語大学で「2021年度授業実施方針及びサテライトキャンパスについてが発表された。(仮称)ノリタケの森プロジェクトと呼ばれる事業所跡地での、21年度に完成するイオンモールに入居する名古屋外国語大学のサテライトキャンパスである。その内容や時期の差はあるにせよ、コロナ禍中での、大学が都心に展開する際の効果を測る一つの参考となるかもしれない。

「まち」を形作っているのは、まぎれもなく「ひと」である。これは不動産業界に関わって約30年になる私の本意である。どんなに便利な交通網ができても、どんなに新しい建物を作っても、それを感覚的に評価する「ひと」がいなければそれらは意味をなさない。

学校は、文字通り学問を学ぶ場であるが、決してそれだけではなく、効率性や経済性とは一線を画した、知的好奇心など「ひと」の感性に基づいた豊かさを享受する時空間と私は見ている。そして、ここで学んだ学生が世の中の主役となるとき、この「まち」を巣立ちの地とし、またそれは「思い入れ」や「なつかしさ」という感覚へとつながっていくだろう。さらに、それらが「まち」を愛する原動力の一つだと考える。

近年、都市空間という領域でよく使われる「職・住・学・遊」。その中で表立つことが多くなかった「学」というピースが加わることで、その「まち」は人間味を増していくだろう。

はたして、AIにこのような感覚は理解できるのだろうか。

【著者略歴】

不動産鑑定士トシこと深澤俊男(ふかざわ・としお)。不動産業界に約30年。大手不動産サービス会社(現CBRE)を退職後、2009年に深澤俊男不動産鑑定士事務所を開業、12年に株式会社アークス不動産コンサルティングを設立。大阪市立大学大学院創造都市研究科修士課程修了。近畿大学非常勤講師。趣味は旅行。全国47都道府県に足跡がある、自称「ほっつきWalker」。