大阪オフィスマーケットで、数年前から注目されていることがある。2022年を中心に大規模な供給があり、需給バランスが崩れるのではないかという、いわゆる「大阪オフィスビル2022年問題」である。
個人的にはこの表現はあまり気に入っていないが、イメージが掴みやすく市民権を得ているようなので、あえて用いることにする。
ただ、その前に、大阪オフィスビルマーケットにて注目すべきエリアがあることをご存知だろうか。それは新大阪エリアである。
新大阪エリアは元々、大阪都心3区(北区・中央区・西区)からやや距離があり、東京、名古屋、福岡などの他の大都市と比べてその位置づけが微妙であった。ただし、現時点では、37年にリニア新幹線が開通予定で、46年には北陸新幹線の全線開通が計画されているなど、大阪の新たなターミナル駅になるということで今後の注目度が高まっている。すなわち、近い将来、新大阪は大阪の玄関口、起着点の地となる可能性を秘めているのだ。
その新大阪エリアでのオフィスビル立地ポテンシャルは、どうみられているのだろうか。
三鬼商事のデータによると、20年末時点では、「梅田」、「淀屋橋・本町」、「船場地区」の各エリアに次ぐオフィス貸室面積を有しており、「京都」エリアよりも3割以上も多い。
ただし、個人的には、「大阪人」と東京人などの「大阪人以外」ではその位置づけに差があるように感じる。
まず、「大阪人以外」は、東西の大動脈である新幹線が乗り入れる新大阪駅というターミナル性を高く評価している。
ところが、「大阪人」についてはその程度が相対的に低いと感じる。淀川を越えた先というイメージがあるからであろうか。ご承知の通り、梅田駅周辺でさえ、その昔、大阪の中心地であった船場からは程遠い田んぼが広がる土地であったことから、古の姿が想像できるだろう。
その新大阪駅の北西部を中心とした徒歩圏エリアに、20年秋から21年末ごろにかけて3棟、22年にはさらに3棟と、1年余りで計6棟の新築オフィスビルが竣工する予定だ。
ちなみに、そのうちの一棟は、以前のコラム「2021年竣工の注目ビル!新たな動きが”ボスビル”を変えるかも?」(未来の地図)で紹介した「PMO EX新大阪」である。
コロナ禍前の平時でさえ、体感温度としてこの供給量は多いのではと感じていた。ところが、依然としてコロナ禍中であり、テナント誘致活動は苦労していると聞く。
過去を振り返ると、新大阪駅の北西方至近に、ひときわ存在感のあるビルがある。それは01年に竣工した「ニッセイ新大阪ビル」で、基準階面積約3300平方㍍という当時としては突出した大型ビルだった。個人的には、このエリアのボスビルと位置付けている(※ボスビルについてはコラム「現時点における御堂筋沿いの「ボスビル」とは?」(未来の地図)参照)。このビルが竣工する前後には新大阪駅南北一帯のビルの空室が増えるなど、貸室面積が急増することによる影響の大きさを示した。
今回は突出した大型ビルではないものの、これだけの短期間に複数のビルが竣工することで、新大阪エリアの需給バランスが崩れることを危惧する声は多い。
しかし、私見としては、新しいビルが市場に出現することは決して悪いことではない。ポテンシャルのある立地においては、むしろ健全な状態ではないだろうか。
今回は竣工のタイミングが短期間に集中するため、その影響が懸念されるものの、中長期的な視点に立つと、適度な供給は市場にとってあるべき姿ではないかと考えている。そして、今後、新大阪の業務立地ポテンシャルの更なる向上に寄与するだろう。近未来の「新大阪」エリアに注目したい。
【著者略歴】
不動産鑑定士トシこと深澤俊男(ふかざわ・としお)。不動産業界に約30年。大手不動産サービス会社(現CBRE)を退職後、2009年に深澤俊男不動産鑑定士事務所を開業、12年に株式会社アークス不動産コンサルティングを設立。大阪市立大学大学院創造都市研究科修士課程修了。近畿大学非常勤講師。趣味は旅行。全国47都道府県に足跡がある、自称「ほっつきWalker」。