【コラム・不動産鑑定士トシの都市Walker】2021年竣工の注目ビル!新たな動きが”ボスビル”を変えるかも?〈21/1/15新規〉


2021年が始まった。年頭に際して、今年の注目プロジェクトを挙げてみたい。今回は大阪都心で竣工するオフィスビルで主なものを紹介する。

一つ目は、新大阪界隈の「PMO EX新大阪」:野村不動産

二つ目は、本町界隈の「本町サンケイビル」:サンケイビル

三つ目は、淀屋橋界隈の「淀屋橋PREX」:住友商事

これらの共通点は、「既存オフィス立地であるが超一等地ではないこと」、「大型ビルではないこと」、「事業主がオフィスビル事業を主とし、かつ全国展開している大手デベロッパーではないこと」などが挙げられる。

これらのビルは、21年の夏から秋にかけて続々と竣工する。大阪をはじめとした地方都市ではこれまであまり見られないこの種類のビルが、ここ大阪マーケットでどのようなポジションをつかむかとても興味がある。

これまでのオフィスビル業界では、シンボリックな新築大型ビルが常に注目された。いわゆる「近・新・大」神話である。大手デベロッパーは、各地でそれらの供給を計画し、先ごろは、日本一の高さのビルが東京駅近くに予定される記事「TOKYO TORCH東京駅前常盤橋プロジェクト:三菱地所が話題となった。おそらく将来のプライスリーダービルの一つになるだろう。

ただ、その裏で、着々と実績を積み重ねていたのが冒頭の野村不動産だ。同社といえば、マンションデベロッパーのイメージが強く、「プラウド」というブランド名で、その品等やグレード感から人気がある。

その同社が08年から東京都心を中心に供給しているのが、中規模高機能ビル、PMOシリーズである。現在、東京の都心5区を中心に40棟ほどの実績があり、これがこの21年に東京以外に供給エリアを拡大する。それが冒頭の「PMO EX新大阪」である。

中規模クラスで決して大きくなく、いわゆるランドマーク的位置づけも一般的ではあるが、大型ビル並みの設備水準とBCP(事業継続計画)対応を備えつつコンパクトにまとめられており、トイレなど専有部分以外の仕様も充実している。東京での例では、パントリースペースも従来のデッドスペースを利用したようなものとは異なり、気軽に集まれる談話室のような雰囲気を持っていることが売りの一つという話もあるようだ。

なお、同社は、今後数年間で、大阪市内にこのビルシリーズを5件、計画しているという(関西エリアでのオフィスビル事業を加速/オフィスビル5物件を大阪市内で23年までに開業/野村不動産=建設ニュース)。

このような動きは、狭い世界だけの話でなく、また決して新しい話でもない。

例えば、自動車業界。大型高級セダン志向から、様々な生活スタイルに対応したミニバンタイプや環境にやさしいハイブリッド車・EV車にシフトする動きがあったが、それらは相当以前からの話であるし、昨今は高性能な軽自動車が市場に多く出回っている。

カジュアルウェア業界でも、近年、実用的な面を兼ね備えたワークマンの多機能ウェアなどが流行っている。他業界において、これまでのスタンダードから少なからず転換している例は少なくない。

オフィスマーケットにおいても、世の中やユーザー志向の変化の中で、オフィスビル事業が主ではないデベロッパーが、知恵を絞ってマーケットに出した商品が今回のビルなのではないだろうか。従来の「近・新・大」型とは一線を画し、中堅中庸的なターゲット層が有するニーズに着目した中規模高機能ビルを提供する。そこには、大きさという力強さや派手さはないものの、独特のやさしさや居心地のよさを感じるし、大きさこそが力と信じてきた男性的な感性からジェンダーレスに変化してきていることを予期させる。

いわゆるシンボリックなビルでなくてもマーケットに訴えることはできないだろうか。その挑戦権を得るかもしれないこの類のビルが、このコロナ禍という逆風の中で、大阪マーケットにおいてデファクトスタンダードというポジションを築けるか、また、地域の「ボスビル」のあり方にどんな影響を与えるかどうか注目したい。

【著者略歴】

不動産鑑定士トシこと深澤俊男(ふかざわ・としお)。不動産業界に約30年。大手不動産サービス会社(現CBRE)でCBRE総合研究所大阪支店長を経た後、2009年に深澤俊男不動産鑑定士事務所を開業、12年に株式会社アークス不動産コンサルティングを設立。大阪市立大学大学院創造都市研究科修士課程修了。近畿大学非常勤講師などを務める。趣味は旅行。全国47都道府県に足跡がある、自称「ほっつきWalker」。