【コラム・不動産鑑定士トシの都市Walker】「心斎橋筋沿いのドラッグストア、その動きはどうですか?」〈20/12/11新規〉


心斎橋界隈が話題になって久しい。高額な取引が目立った昨年までと今春からのコロナ禍での影響など、いずれの時期においても注目度が高いエリアである。そんな心斎橋界隈について、記事タイトルの質問を今年の春から夏にかけてよく受けた。

2019年の夏に、テレビなどでお馴染みの、戎橋のたもとにあるビルが住友商事(東京都千代田区)に売買された。その後、メインテナントだったアパレルブランドのH&Mが退去することとなり、後継テナントは何なのかと噂となった。蓋をあけると、やはりドラッグストアだったという話題は記憶に新しい。

心斎橋筋にて相場といわれていた店舗賃料は高くても1坪当たり10万円くらいまで。しかしドラッグストアはその倍以上を出してもいいという勢いで、近年出店を加速させていった。それでも採算がとれていたとのことなので、インバウンドよる購買力がいかにすごかったかは想像に難くない。心斎橋筋の店舗はドラッグストアが頂点と表されるほどの存在感であった。

そんなドラックストアであるが、その出店数はどのくらいなのだろうか。

アークス不動産コンサルティング社調べによると、19年9月時点において、心斎橋筋沿い(※)に、複数(2店舗以上)出店しているドラッグストアの店舗は26店を数えた。特にヨーロッパ通のすぐ南の心斎橋筋沿いでは、僅か10数㍍に4店舗がひしめき合うドラッグストアだらけの様相を呈していた。

(※)心斎橋駅から難波駅(南船場3丁目9を北端、難波3丁目8を南端)の約1400㍍。

それから1年後の20年9月では、それら26のうち3店舗が営業していなかった。ちなみに、それら3店舗のうち1つは建て替え、2つは営業休止中でシャッターが下りていた。

さて、この営業していなかった3店舗(1割強)をどうみるか?

一方、同じ1年間で2店舗が新たに出店している。ちなみに、そのうちの1店舗は冒頭の戎橋のたもとのビルである。つまり、3店舗は営業していないものの、2店舗増えたので、実質1店舗のマイナスである。緊急事態宣言を経た世の中の動きからして、大きな影響を受けたのではないかと思いきや、そうでもないとも言えないだろうか。

これには様々な理由があると考えられる。一つは契約形態。賃貸借契約が定期借家契約となっている場合は途中解約ができない、または多額の違約金を支払わないといけない場合が多い。さらに、その立地に稀少性を有する心斎橋筋沿いは一旦撤退すると再出店しづらいこともあるだろうし、店舗立地戦略上、多少の損失があったとしても同業他社の出店を拒むことによるメリットの方が大きいという考え方もある。他にもコロナ禍からまだ半年余りということもあり、現段階では退店を判断しかねるということがあるのかもしれない。要は様々な理由で、売り上げが減少したから即退去というわけにはいかないのである。

店舗市況をみるバロメーターは、通行量の多さや店舗退去後のシャッター期間がどれくらいなのかなどが目安といわれる。

コロナ禍以降の通行量調査結果などは把握できていないが、緊急事態宣言解除から数か月経過した9月から11月においては、以前と比べると減ってはいるものの一定の通行客が見られる。

他方、一世を風靡したタピオカ店が閉店との張り紙。このような店舗閉鎖、移転のお知らせやビルの建替えなど、これまであまり見られなかったシャッター風景が心斎橋筋沿いでもやや増えてきたように思われる。

以上のように、一般店舗に比べ、心斎橋筋沿いのドラックストアの動きは現時点では目立たないが、現在、新型コロナウイルス第三波の渦中にあることや、今後、年末そして年度末を迎えることも踏まえ、各社における経営判断の可能性があるとも考えられる。それ以外の店舗と合わせて、どのような動きを示すか引き続き観察していきたい。

【著者略歴】

不動産鑑定士トシこと深澤俊男(ふかざわ・としお)。不動産業界に約30年。大手不動産サービス会社(現CBRE)でCBRE総合研究所大阪支店長を経た後、2009年に深澤俊男不動産鑑定士事務所を開業、12年に株式会社アークス不動産コンサルティングを設立。大阪市立大学大学院創造都市研究科修士課程修了。近畿大学非常勤講師などを務める。趣味は旅行。全国47都道府県に足跡がある、自称「ほっつきWalker」。