不動産業界に約30年いるが、今から20年ほど前のサラリーマン時代、こんなものがあればいいなと常々思っていたものがある。それが現在、この世に存在する。そのうち、一般の方々にも手軽で便利な2つのツールを紹介する。
一つは、『グーグルストリートビュー』。これはあらためて紹介するまでもなく、世界中で使われている。日本に登場したのは2007年ごろで、それから13年経つが、ビジネスマンで知らない人はほぼいないのではないだろうか。その後、その閲覧対象範囲は拡がり、さらにGoogleマップ上での3次元表示に対応したEarthビューや、お店の中も見ることが可能なインドアビューなどが追加された。
ちなみに、個人的なおすすめは、画面の左上に小さく「ストリートビュー」と書かれている箇所をクリックすると、その場所の約10年の履歴を見ることができる。これはブック式の地図にはない機能で、過去の変遷を画像で認識することができ、重宝している。
もう一つは、『不動産取引価格情報提供制度』。これはストリートビューに比べてあまり認知されていないのではないだろうか。この制度は国土交通省が2005年度から段階的に進めており、15年ほどが経過した。一言でいうと、実際に取引された不動産取引価格情報がサイト上に表示されるものである。
例えば、『不動産取引価格情報検索』のサイトを開き、見たい都道府県(例:大阪府)をクリックすると、前回のコラムで書いた地価調査や地価公示の各地点が表示されている地図ページが出てくる。
この地図上のどこかをダブルクリックすると、赤色で範囲が示され、あわせて〔「不動産取引価格情報 大阪府●●の宅地(土地)」H31/4-6月~R02/1-3月、土地取引件数:□件、取引価格情報:□件〕と表示されたビューが開く。この取引価格情報が実際に取引されたもので、詳細表示を押すと、その内容がまとめられている。情報の性質上、具体的な場所は特定できないが、大まかな所在地、最寄駅とその距離、取引総額、単価、形状、前面道路の幅員、種類や方位、都市計画の内容、取引時期などある程度の情報を把握することができる。地理感のある人ならこの辺ではないかとあたりをつけることも可能であろう。
このような情報が国のサイトに開示されていることを知らない人は意外と多く、講演や企業内セミナーなどで話すとそんな情報があったんだと驚嘆の声を聞くことが少なくない。
不動産業界は以前から他業界に比べ遅れているといわれることが多く、その理由の一つに情報の不透明さ、非開示性があった。端的にいうと、情報があまり表に出ないということである。一方、世界では、不動産登記簿に取引価格を掲載している国もあり、日本は世界と比べて閉鎖的な感は否めない。ちなみに、インターネットにあふれている物件情報はあくまで売主の希望価格に過ぎず、成約に至った取引価格ではない。また、どこそこの物件がいくらくらいで決まったという話を耳にしても、それは確実な情報ではなく、あくまで噂レベル。売買契約書に記載されている取引価格の内容は当事者間か、その取引に関わった不動産業者などに限られ、それ以外の人は実際の情報に触れにくかった。そんな中で、この制度の創設や拡充は、そこに風穴を少し開けたのかもしれない。
このように、20年前にあったらいいなと思っていた革新的で便利なツールが今は実在する。今回紹介した2つには、誰でもいつでも無料でアプローチできるという手軽さも兼ね備えている。
次の20年はどんなツールが生まれ、我々にどのような影響を及ぼすのだろうか。
【著者略歴】
不動産鑑定士トシこと深澤俊男(ふかざわ・としお)。不動産業界に約30年。大手不動産サービス会社(現CBRE)でCBRE総合研究所大阪支店長を経た後、2009年に深澤俊男不動産鑑定士事務所を開業、12年に株式会社アークス不動産コンサルティングを設立。大阪市立大学大学院創造都市研究科修士課程修了。近畿大学非常勤講師などを務める。趣味は旅行。全国47都道府県に足跡がある、自称「ほっつきWalker」。