【コラム・不動産鑑定士トシの都市Walker】大阪・キタの地価がミナミを逆転!そもそも地価調査を見る際に気をつける点とは?〈20/10/2新規〉


国土交通省が『2020年地価調査』を公表した。毎年7月1日時点の価格を同年9月下旬に発表するこの調査だが、今回は新型コロナウイルス感染症による影響が始まった後に初めて発表された調査だったため、例年以上に注目されている。なお、この調査は、毎年1月1日時点の価格が同年3月下旬に発表される地価公示とともに、土地取引の指標となるものである。

今回の調査で、大阪都心部における特徴的な動きは、キタとミナミの逆転であろう。18年にミナミ(戎橋付近の住友商事心斎橋ビル:現時点での名称)がキタ(グランフロント大阪南館)を抜いて大阪で最高価格地点となり、その後、ミナミがキタを上回り続けていたが、今回、ミナミの価格が下落し、キタはやや緩和はしたものの上昇を継続したため、再逆転となった。この背景には、ミナミ界隈における訪日客激減に伴う店舗やホテルの業績低迷などの反面、キタ界隈のオフィスビルは空室率が依然として低く、比較的堅調な市場環境であることが挙げられる。

なお、国土交通省では様々な分析結果を「2020年都道府県地価調査」として掲載しているが、個人的にはその中で「特徴的な地価の上昇が見られた各地点の動向」に注目している。これは全国の上昇地点を特徴的なカテゴリー毎にまとめたもので、今回は「最高価格地等における地価動向」のほか4つが挙げられており、具体的な地点の状況がコメントとともに紹介されているので参考としたい。

これらの詳細やその他の調査結果は上記のホームページのほか、マスコミ発表などに拠ることとし、以下では、馴染みのない方々向けに、この地価調査を見るにあたってそもそも前提となる留意点をいくつか挙げてみたい。

一点目は、調査地点が定められた場所の1平方㍍当たりの土地価格を対象としていることである。特に、①建物などが所在する具体的な土地を評価の対象としつつ、②建物などがない状態の土地(更地)を前提とすることに気をつけたい。たとえば、今回、首位を明け渡した上記のミナミのビルについては、あくまでも個別具体的な土地のみの価格であるため、そこには建物がないことを前提としつつ、その土地の個別的な特徴である角地や形状などの要素をも含んだものとなっている。

二点目は、発表時点は価格時点ではないことである。すなわち、この調査にはタイムラグが生じている。すでに示したとおり、今回の地価調査の価格時点(価格の基準日)は7月1日であるが、発表は9月下旬で、3か月近い隔たりがある。不動産市場が安定的に推移している際には許容範囲かもしれないが、昨今のように先行き不透明で市場が混とんとしている時期には、このタイムラグは決して小さくない。この点にも留意が必要だろう。

このような諸点を踏まえながら、昨今は地価のトレンドが地域や用途により様々な動きを示していることから、特に、個別の地点についての動きとその背景に着目する方がよいだろう。

ちなみに、次回の地価公示は来年3月下旬に公表予定である。来春はどんな興味深い内容が発表されるのだろうか。

【著者略歴】

不動産鑑定士トシこと深澤俊男(ふかざわ・としお)。不動産業界に約30年。大手不動産サービス会社(現CBRE)でCBRE総合研究所大阪支店長を経た後、2009年に深澤俊男不動産鑑定士事務所を開業、12年に株式会社アークス不動産コンサルティングを設立。大阪市立大学大学院創造都市研究科修士課程修了。近畿大学非常勤講師などを務める。趣味は旅行。全国47都道府県に足跡がある、自称「ほっつきWalker」。