【コラム・不動産鑑定士トシの都市Walker】在宅勤務からサードプレイスへ移行するための受け皿を!〈20/9/4新規〉


コロナ禍の中、様々な場で議論されている在宅勤務について今回は考えてみたい。前回のコラムでも触れたが、良い点もあれば課題もあり、特にこの状況が長期化するにつれて後者が目立ちつつある。では、近くの喫茶店でパソコンを開いてお仕事を、というわけにもいかない。

ザイマックス不動産総合研究所(東京都千代田区)が7月に発表した「コロナ危機における企業の働き方とワークプレイス」によると、新型コロナ禍対策として実施した施策の中で、在宅勤務は他を大きく引き離して多い。ちなみに、その比率は東京23区で93・6%、大阪市が86・1%、名古屋市は86・4%だった。

巷では「サテライトオフィスへ」といった声も聞こえてくるが、上記のレポートにあるように、サテライトオフィスの利用は、大阪は東京と比べて低く、その実績は2-3%に留まっている。そもそも大阪をはじめとした地方都市にはその数が限られていることも一因ではないだろうか。

このような背景を踏まえ、また、今後すぐには在宅勤務が解消するとは考えにくいことから、中長期的な視点での、働く場の一案を提示してみたい。

それは、自宅、オフィス以外のサードプレイスへの移行を想定しておくというものである。といっても、既存の賃貸ビルなどに限ったものではなく、世の中に存在する低未利用スペースを必要に応じて利活用できないかと考えている。

たとえば、役所などの公共施設での未利用スペース。

先般も、ある地方都市の市役所に赴いた際、以前食堂として使われていた場所がリフレッシュルームと名を変えてあった。ところが利用者はなく、空きスペースと化していた。何も市役所庁舎そのものだけに着目するのではなく、地方公共団体が所有しているものの使われていない公共施設は目立たないだけで相当存在しており、そちらの方が可能性は高いだろう。

また、上記レポートにもあるが、「東京オリンピックの大会対策として予定していた社宅の空き部屋を子育て世代に解放したところ好評だった」という意見があるように、以前と比べて減ってはいるが、低未利用状態の社宅や社員寮も活用の余地はある。

そのほか、大阪近郊の周辺都市には、IT化などによりダウンサイズ化が進んだ自社ビルの空きスペースや、統廃合予定の金融機関の空室など、今は活用されていないが、すぐに使用可能な設備が整った空間が世の中には散見される。これも相当数あるだろう。

以上のような低未利用建物やスペースを使わない手はない。

ただし、このような施策を行うには、様々な法令規制の観点やセキュリティー上の課題など越えなければならないハードルがある。また、そもそも所有者側の理解と協力が必要であることは言うまでもない。しかし、コロナ禍以外にも自然災害などの緊急事態に対応できる働く場としてのサードプレイスは今後必要不可欠な時代となるだろう。

その準備を今のうちからしておきたいものである。

【著者略歴】

不動産鑑定士トシこと深澤俊男(ふかざわ・としお)。不動産業界に約30年。大手不動産サービス会社(現CBRE)でCBRE総合研究所大阪支店長を経た後、2009年に深澤俊男不動産鑑定士事務所を開業、12年に株式会社アークス不動産コンサルティングを設立。大阪市立大学大学院創造都市研究科修士課程修了。近畿大学非常勤講師などを務める。趣味は旅行。全国47都道府県に足跡がある、自称「ほっつきWalker」。